― 脱出! 龍神温泉 ―

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ここは龍神温泉―――


岩壁の向こうで、ちゃぷん…と音がした。
続いて、望美と朔の声。
「朔、そろそろ出ようか。少しのぼせてきたみたい」
「そうね、私もよ。それに、あまりゆっくりしていると、みんなを待たせてしまうわね」


息を潜めて耳をそばだてていた「野郎」たちは、一斉に大きく息を吐いた。
ヒノエが素早くお湯から出る。
「じゃ、オレはお先に上がらせてもらうよ。
湯上がりの姫君に早く逢いたいからね」
「そんなにがっつくものではありませんよ、ヒノエ」
「へえ、それならもっとゆっくりしてれば?」
「いや……神子達を待たせるわけには…いかないと…思う」
いつの間にか湯から出ていた敦盛が、湯気の向こうに歩いて行く。
「お、やるな、敦盛」
「兄さんも慌ててどうしたんだよ」
「お前達、何をくだらんことで争ってるんだ」
「まあまあまあまあ、ここは仲良く、みんな一緒に出ようよ、ね?
って…あれ? リズ先生は?」
「先生がいない!」
「ふふっ、瞬間移動ですか。こういう時にはちょっとうらやましいかな」
「オレ達も急ごうぜ」

しかしその時、リズヴァーンが戻ってきた。
立ち上る湯気の中で、厳しい表情を浮かべている。

「何かあったのですか、先生」
九郎が問うと、リズヴァーンは頷いた。
「皆、落ち着いて聞きなさい。出口が消えている」

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

そんな馬鹿なことがあるはずない、と全員で探したが、周囲は固い岩壁ばかり。
ここに来る時に通ったはずの入口=出口が、どこにも見つからない。

「不思議なこともあるもんだな。
さすが龍神の名がついてるだけのことはあるぜ」
「そんな暢気なこと言ってる場合じゃないだろ、兄さん。
早く行かないと、先輩が風邪をひいてしまう」
「あ〜〜譲くん…そっちの心配なんだ〜〜」
「たまには譲もいいこと言うじゃん。急いで何とかしようぜ。
姫君の玉の肌を見逃す手はないからね」
「ふう……でも困りましたね、何とかしなければ…と簡単に言いますが、
いったいどうすればいいのか」
「リズ先生……瞬間移動で出ることは…できないのですか……」
「不可能だ。岩壁の厚さが分からぬ」

「こうなったら最後の手段だ。出口のあった場所の壁を壊そう」
「分かりやすい手段だな、九郎。それで行こうぜ。
…ってわけで敦盛、頼む」

「壊して……すまない……」
ドカァァァン!!!
敦盛が謝りながら凄まじい力を解き放った。

だが、ガラガラと岩が崩れても出口は現れず、
なぜか湯気の向こうに柔らかなシルエットが二つ見えて……

「きゃあああああああああっ!!!!!」
「あ、兄上、見損ないました!!!」
望美と朔の叫び声が響き渡る。

「来ないでえええええええっ!!!!!」
望美は近くの大岩を持ち上げると、こちらに向かってぶんっと投げた。
岩は、敦盛の開けた穴にすぽっと収まる。

大岩の向こう側から、怒りに燃えた望美と朔の声が聞こえる。

「もうっ、みんな最低!!」
「帰ったらきっちり叱りましょう、望美」
「うん。きっちりお仕置きもしないとね」
「ええ、きっちり」
「みっちり」
「ぎっちり」
「ぎちぎち」
「まだ足りないわね」
「全っ然足りない」


「……………………」×8
あちら側から出る、という選択肢は、完全に消滅した。

呆然とした八人だったが、やがて景時が口を開いた。
「あのさ……おかしい……よね。
確か、こっちは出口……のはずだったよね」
「そうだ……。神子達は…湯の奥にある壁側にいたはず」
「オレ達、揃って聞き耳立ててたから、その点は確かだってね」
「そういや、岩壁の上は大きく開いてなかったか」

「見てこよう」
ヒュン……
リズヴァーンが姿を消す。

「のぞきはだめだ、リズ先生! 先輩を見るな! 見るなら目を閉じて…」
「落ち着きなさい、譲。のぞいてはいない。神子も見ていない」
「早……、もう戻ったのか……」
「で、どうだったんだい。姫君達はいなかったんじゃない?」
「うむ。岩壁の上は天井まで隙間なく塞がっていた」

「結局、振り出しに戻ったってわけか」
「つまり何も変わってないってことじゃないか。
このままでは先輩が……」
「まあまあ、振り出しに戻ったことが分かっただけでもよしとしようよ〜」
「景時、よしとするとは何だ!? お前はこの事態を……」
「九郎、景時を責めても得るものはない。
それより総大将として、今何が必要かを考えなさい」
「……すみません、先生。悪かった、景時」
「いやいやいや、そんなこと気にしないでよ〜。
は〜〜、こんな時、オレがもっと有能な陰陽師だったら、
岩壁の向こうを探れるんだろうけどね」

景時の言葉に、九郎が叫んだ。
「それだ! 景時!」
「え…え、え、え、いきなり何!?」
「岩壁を探るんだ!」
「でもオレ、そんなことできないって」
「違う。岩壁に隠されているものがないか、調べてほしいと言っているんだ」

弁慶が頷いた。
「なるほど、そういうことですか。
出口の扉は消えたわけではなく、
見えないだけなのかもしれない、ということですね」
「どうなんだ、景時。ここは陰陽術でさくっと頼むぜ」
「野郎が八人、いつまでも裸でうろうろしてるなんて、サイテーだしね」

「うん、それなら何とかなるかもしれないよ〜。
隠形の術の反対で、隠されたものを暴く術だよね。
ちょっと待っててよ。確かその術は………」
景時は岩壁に向かって印を結び、呪を唱え始めた。

と、少しずつ、周囲の様子が変わっていく。

「いいぞ、景時!」
「静かに、九郎。景時は術に集中しているんです」
「陰陽術か。すげえもんだな」
「兄さんも黙っててくれよ」

やがて、薄れた湯気の中に扉の形がゆらゆらと現れた。
しかしそれは不安定で、今にも消えてしまいそうだ。

「ひぃぃ〜。がんばったけど、
オレの力だとここまでが精一杯だよ………ぐふっ」
力を使い果たした景時が、ばったり倒れる。

「扉が消える前に早く出ようぜ」
「みんな、行くぞ!!」

扉が軋みながら開き、全員が外に飛び出す。
最後に景時を支えて玄武二人が出たのと同時に、扉は消えた。

そして、みんなが立っていたのは、寒風吹きすさぶ……………

「ここは……」
「鶴岡八幡宮……」

みんなは互いに顔を見合わせ、次に自分の恰好に気づく。

「服……どこだ……」
「ふぇーっくしょん!!!」×8

参拝客の声が聞こえてきた。

「ふぇーっくしょん!!!」×8

参拝客の声が近づいてくる。

「ふぇーっくしょん!!!」×8

どうする。

「ふぇーっくしょん!!!」×8

そうだ! 迷宮の扉だ。
あの中に飛び込めば……

         ・
         ・
         ・
         ・

「ふぇーっくしょん!!!…………はっ!」

暗がりの中で、九郎は目を覚ました。
部屋の天井近くには、「まめきゅう」という小さな灯りがある。

「九郎、風邪でもひいたんですか……むにゃ…」
「あんたのくしゃみで目が覚めたんだけど……ふぁぁ…」
「悪い夢でもみた? 寝言でオレのこと叱ってたみたいだけど……すぴぃ〜」
「うなされていた……ようだが……」
「髪を洗ったら、どらいやーでよく乾かしてから寝なさい」
「zzzzzzzzzzzz………」(←白龍・大)

「みんな、起こしてしまってすまん」
九郎はぺこりと頭を下げた。

「すやすやすやすや……」と安らかな寝息がそれに答える。
全員の睡眠力は、ふかふかに干した布団によって格段に高まっているようだ。

九郎はそっと部屋を出た。
――髪を乾かすために。


― 終 ―





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Q: 100000打のお礼が、こんな裸祭りでいいのですか?
A: 初心に還っただけなので、問題ないです。
サイトで最初にアップしたSSが「温泉湯煙大作戦・R」でしたので。

元ネタの温泉湯煙大作戦は、九郎さんのイベント。
なので、オチは九郎さんにしました〜〜。


2012.12.22 筆