受難の日

(リズ×望美・「迷宮」ED後)



もわもわ〜〜もわもわ〜 もわもわ〜〜もわもわ〜〜もわもわ〜〜
大鍋に怪しげな液体がグツグツと煮えたぎっている。
もわもわ〜〜もわもわ〜 もわもわ〜〜もわもわ〜〜もわもわ〜〜
「トカゲのしっぽ〜〜
コウモリの羽〜〜
カエルの目玉〜〜
ヘビの〜〜〜」
もわもわ〜〜もわもわ〜 もわもわ〜〜もわもわ〜〜もわもわ〜〜
大きなスプーンで鍋をかき混ぜながら、
呪文を唱えては 次々と不気味なモノを放り込んでいくのは……

「兄さん、先輩の家が↑って感じに見えるんだ」
譲が、眼鏡のレンズを丁寧に拭きながら言った。
「何だ、お前もか」
さっきから眼をごしごしこすっていた将臣は、ほっとしたように手を止める。

「…ということは、先輩が料理を……」
「ま、この時期だからな。だいたい想像つくぜ」
「………やっぱり、チョコレートに近い何かってことか」
「できあがったモノが、チョコに近けりゃいいが」
「限りなく遠くたって、当然の代償だよな」
「譲、お前のセリフ、真っ黒だぞ。
でもまあ気の毒だが、 こればっかりはリズ先生に引き受けてもらわねえとな
「何だよ、兄さんだって、部分的に黒いじゃないか」



ふわふわ〜〜〜ふわふわ〜〜〜 ふわふわ〜〜ふわふわ〜〜
先生、これ、私の気持ちです。受け取って下さい
ふわふわ〜〜〜ふわふわ〜〜〜 ふわふわ〜〜ふわふわ〜〜
神子、お前の気持ち、喜んで受け取ろう
ふわふわ〜〜〜ふわふわ〜〜〜 ふわふわ〜〜ふわふわ〜〜
あの、先生……チョコと一緒に私も受け取って下さい
ふわふわ〜〜〜ふわふわ〜〜〜 ふわふわ〜〜ふわふわ〜〜
望むままに、神子……
ふわふわ〜〜〜ふわふわ〜〜〜 ふわふわ〜〜ふわふわ〜〜
うれしいです、先生……
ふわふわ〜〜〜ふわふわ〜〜〜 ふわふわ〜〜ふわふわ〜〜
むぎゅわっ!

なんて……きゃあああああっ!!

望美は自分の妄想に照れまくった。

あ! しまった!!
豆が焦げちゃう!!

有川家の会話など知るはずもなく、
望美は、リズヴァーンにあげる記念すべき初チョコ、
「望美スペシャル」作りにいそしんでいる。

お菓子作りの得意な友達に借りたレシピ本
「初恋のスイーツ・流山詩紋著」を見ながら、
自分なりのアレンジを加えて頑張っているのだ。

が、なかなかうまくいかない。

どひゅぅぅぅぅぅんっ!!
鍋からチョコレートが噴水のように吹き上がり、
ぼとととっ!!
望美の上に降りかかる。

「きゃあ!熱っ!!」

どひゅぅぅぅぅぅんっ!!
どひゅぅぅぅぅぅんっ!!
どひゅぅぅぅぅぅんっ!!

チョコレートはあちらこちらに吹き上がる。

負けないっ!!
絶対先生に、望美スペシャルをあげるんだ!!

落ちてくるチョコレートを鍋で受けながら、
望美は煎った豆に塩をぶち込んだ。



どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
如月は、ちょこれえとの旬なのか。
店先で大量に見かけるようになった。
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
神子の言っていたばれんたいんでえという行事の
準備のためなのだろうが……
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
どれも…美味なのだろうな………
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
はっ!! 甘い誘惑に心を乱されるとは
私もまだまだ修行が足りぬ。
めたぼとは内臓死亡を溜め込む恐ろしいものと、
神子が言っていたはず。
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
しかし……
神子がくれるちょこれえとならば、
私は喜んで受け取ろう。
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
あの、先生……チョコと一緒に私も受け取って下さい
望むままに、神子……
うれしいです、先生……
むぎゅわっ!
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
ぽっ……
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
む…!! わ、私は何という破廉恥な妄想を……
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
もっと修行に励まねばならぬ。
ただ座禅を組むだけでは足りぬようだ。
滝に打たれに行こう。
どきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどきどき
……神子のちょこれえとを受け取ってから。



さあ! できた!!
「望美スペシャル」完成!!

あとは、ハートの型から抜き取るだけ。
慎重に…慎重に………

ずぶぅぉぅぁ…

不気味な音がして、チョコは型から出された。

ぱら…
左右のコーティングが外れている。
凹むべき上部はぼよよん…と円形になった。
しかし、下に向かって細長い形にはなっている。

うーん…この形、どこかで見たような……

あ! そうだ。
両手を頬に当てて叫ぶ人の絵に似てるんだ!

あれって、名画なんだよね。
偶然でも、そっくりになるなんて、すごいかも♪

もはや誰も近寄れない魔窟と化したキッチンの真ん中に立ち、
望美は高らかに勝利宣言をした。



そしてバレンタインデー………


望美から手渡された箱を開けたリズヴァーンは、
そこに恐怖の叫びを見た。

反射的に蓋を閉めそうになるが、意志の力でそれを押しとどめる。

神子、お前の心こそが、私の運命だ。

 ぱくっ






ぐふっ









この後、リズヴァーンが滝に打たれに行くことはなかった。






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このSSの別タイトルは、「望美スペシャルの悲劇」です。
箱を開けたとたん、ムンクの「叫び」と対面した先生の気持ちは…。

話としては、拍手に上がっている「追儺の日」の続編で、
小説部屋の「VS甘い誘惑」も関連していますが、
特に意味不明になることはありません。
バレンタインデー話でも、ひたすらギャグ路線に走ってしまう自分が悲しい(苦笑)。

なお、テーブルタグ未対応のブラウザでご覧の方には、
表示が崩れてしまっているかもしれません。
効果の一部として使っておりますので、お見苦しい点はお許し下さい。


2009.2.11 筆