足元に海。
海の彼方に富士の山。
山の上に広がる青空。
高く飛ぶ海鳥。
風に乗り、どこからともなく流れ来る花びら。
潮風は、あたたかな春の気に満ちている。
ここは切り立つ崖の中腹に穿たれた、小さな洞穴。
上る道も下りる道もない、秘密の場所。
二人、寄り添いながら、波音に包まれる。
ぬくもりも、やわらかな息も、漂い来る花の香の中。
リズヴァーンが、静かな声で言った。
「神子、今日はほわいとでーだったな」
「先生…、ご存知だったんですか?」
優しい笑いを含んだ声で、リズヴァーンは答える。
「この世界の習わし、なのだろう。
日々学ぶことは多いが、
神子の気持ちへの返礼を、知らぬではすまされない」
そう言って望美の掌に置かれたのは、
精緻な彫りを施された指輪。
「わあ…きれい……。
あの、もしかして私のために…作ってくれたんですか?」
「無論。神子の薬指に合うように」
「指輪のサイズ、よく分かりましたね……って…
ええっ! くくく薬指?!」
「神子、薬指では、違うのだろうか」
顔を上げると、少し不安げな青い瞳がある。
「先生…ありがとう…」
にっこり笑って、望美は指輪をリズヴァーンに渡した。
そして、左の手を差し出す。
「正しい習わしは……
先生がこの指輪を、私の指に…」
さらに、頬を真っ赤にして小さな声で付け加える。
「あの…その後に……誓いの…」
あたたかくて大きな手が、望美の手を取った。
「神子…お前の望むままに」
ホワイトデーSS、その2でした。
場所は、江ノ島西側の崖を想定しています。
リズ先生が釣りの時に発見したというのが、隠し設定。
よい子は、立ち入り禁止区域に瞬間移動してはいけません(笑)。
糖分を少し混ぜたつもりですが…甘みを感じていただけたかどうか(滝汗)。
せめてギャグのお口直しになれば、幸いです。
2009.3.9 筆