静かな朝だ。
神子、寒くはないか。
ああ………そうだな。
二人でこうしていれば、あたたかい。
お前はとても……あたたかい。
しかし、なぜ今日はこのように早く起きた?
私の……誕生日?
何か私の望むものを贈りたい…というのか?
私には、お前の紡ぐ寿ぎの言葉こそが、至上の祝福だ。
だが、生まれた日を祝うのは、神子の世界の習わしなのか?
……いや、厭うているのではない。
習わしは礼に通じる。従うのは当然だ。
……そうだ。
私の世界では、年が改まると、人もまた一つ年をとる。
そのようにして、私は年を重ねてきた。
神子、急に声を詰まらせて、どうした?
……無論、新しい年の始まりに、私はいつも一人だった。
それは、春の花を見る時も、旧き年を終える時も同じこと。
しかし神子、年が来るごとに違うことが一つだけあった。
新たな年を迎えるたびに、
お前に再びまみえる日が近づくのだ。
だからその日は、私にとって自らの誓いを新たにする日であった。
お前の八葉となり、師となるために、
身を律し、技を磨き、剣の道を究める…と。
……私の孤独を思ってくれるのか、神子。
だが、独りで生きることの淋しさに、負けることはできなかった。
お前を救うことができないならば、私の歳月に意味はないのだから。
………お前を忘れて生きる?
自分のために生きることを考えなかったのか……と
お前は問うのか。
ならば答えよう。
私は、己自身のために生きてきた、と。
白龍の逆鱗で過去へと飛ばされた、あの遠い日――
幼い私は決意した。
お前へと続く道を行くと。
……そうだ、神子。
私は自ら、この道を選んだのだ。
誰もが、何かを選択して生きていく。
全てを失ったあの日の私に残されていたのは、
選ぶことだけであった。
幼い私は、生きるためにこの道を選んだのだ。
……覚えていたのか、神子。
かつて私はお前に、選んだものは手の中に残る…と言った。
あの時も今も、私の手の中にあるものは変わらない。
数十年先の邂逅を待ちながら過ごす歳月は、
彼方に灯る、お前という光に導かれて進む日々の連なりだった。
そして今……お前はここにいる。
こうして、共に朝を迎えている。
これこそが、私には何よりも尊い。
……む……そのように真剣な顔をしてどうしたのだ、神子。
祝いの言葉だけでは気がすまぬ…というのか?
……ならば、一つだけ、願おう。
――もう少し、こうしていてもよいか。
穏やかに明けゆく暁の空を、共に見ていたいのだ。
お前のぬくもりを抱きながら……。
神子……お前を愛している。
先生のお誕生日SSでした。
モノローグですが、望美ちゃんと一緒にいる…という設定です。
先生の長編を書きたくてサイトを立ち上げてから、
いつの間にか7年近く経っていることに、今年になって気づきました。
加速装置付の年月って、怖ろしい。
で、初心に帰って書いてみたのが、このモノローグです。
先生の幸せこそが、管理人の至福であります。
2013.01.09 筆