師たる者

リズヴァーン×望美「迷宮」ED後背景



ザーザーと降る雨音にシャワーの音が重なる。

外は激しい雨。
ここはリズヴァーンの家の浴室だ。

――いつも、ここで先生は………きゃ……♪
望美は、どきどきしながらシャワーを浴びている。



江ノ島でリズヴァーンと釣りをした帰り道、突然の豪雨に見舞われた。

望美とクーラーボックスと釣り竿を抱え、
激しい雨脚にまぎれてリズヴァーンは瞬間移動を繰り返したが、
やっと家に辿り着いた時には、望美は全身びしょ濡れで、
ついでに泥だらけになっていた。

走った時に足を滑らせて、リズヴァーンが支えるより早く、
水たまりにスライディングしていたからだ。


「神子、このままでは風邪をひく。
浴室を使いなさい」
「でも、先生もずぶ濡れです」

「問題ない。
私のことより、神子は自分の身を案じなさい」

リズヴァーンは、フェイスタオルとバスタオルを脱衣場に置くと、
「着替えは心配しなくてよい」
とだけ言って、ドアを閉めて行ってしまった。


ザーザー

冷たい雨に打たれた身体に、あたたかいお湯は心地よい。
泥もきれいに洗い流せた。

着替えは心配ない……って
先生が服を貸してくれるのかな。
でも、せっかく貸してもらっても大きすぎるよね。

はっ!!
……ということは、パジャマの上衣だけ着るとか……
それで、先生の前に………それから♪♪……ええと♪♪

妄想がふくらみかけたところで、望美は我に返った。

そうだ! 先生だって、あのままじゃ風邪をひいちゃうよ。
早く出て交代しなくちゃ。


その時―――
脱衣所の扉を開ける音がした。

ドキン!♪
せ…先生?

湯気に曇った風呂場のドア越しに、黒い人影が見える。

どきどきどきどき……
お、落ち着かなくちゃ。
騒いだら、先生が逃げちゃう。

人影は、ドアノブに手をかけた。

どきどきどきどき……

「望美…」

??
!!!!
「いゃあああああっ!!!」



「あの声は…」
「あら、望美の悲鳴だわ。やっぱりね……。
だから止めておきなさいって言ったのに」
望美の母が、手にしていた湯飲みを置いて立ち上がった。

「リズ先生、様子を見てきますわ。
こういうことは母親の役目なのに、あの人ったら」


その頃、風呂場では望美がドアノブをがしっと押さえていた。
「だめえええっ!! 入ってこないで!!!」

「あ、ああ、すまん。開けたりしないから。
でもそんなにいやがらなくてもいいじゃないか。
リズ先生から電話をもらって、慌てて車を飛ばして来たのに…」

え…………
先生が………

「お前の着替えを持ってきた。
ここに置いておくぞ。紙袋に入ってるからな」

着替えは心配ないって……こういうことだったんだ。

「いやあ、服も下着の場所もわからなくて大変だった」
「ええっ!! わ、私の部屋のクローゼットを開けたの!?」

「そ、そんなに私がいやなのか」
がっくりと肩を落とした父の後ろから、母の声がした。
「大丈夫よ、望美。私が止めたから。
あなた、リズ先生がお茶を淹れてくれましたから、
あちらでいただいたら?」
「うううう……そうする」

「お母さん! ふぇぇぇ〜〜ん」

「泣くほど……私は嫌われてるのか………望美ぃ……
小さい頃は父さんと一緒に喜んでお風呂に」
「いいから、あなたはリズ先生とお話していて下さいな」

「私、もう出るから、お母さんも、行ってていいよ。
着替え、ありがとう」
「どういたしまして。
あなたからも、リズ先生にちゃんとお礼を言うのよ」
「はい………」


望美が風呂から上がると、居間では両親がすっかりくつろいでいた。
落ち込んでいた父親も、リズヴァーンと話すうちに立ち直ったようだ。




その日の晩ご飯は、リズヴァーンの家でみんなで食卓を囲むことになった。
釣ってきた魚をリズヴァーンが見事にさばいたのは言うまでもない。

二人きりの休日のはずだったのに、
いつの間にかにぎやかな休日になってしまった。

だが、望美の小さな不満はすぐに消えた。

食卓の向こうに座ったリズヴァーンは、
穏やかな笑みを浮かべて望美の父母の話に耳を傾けている。

………こんな日もいいかも。
未来のリハーサルみたいで………♪

一人で赤くなった望美と眼が合うと、
リズヴァーンは小さくうなずいてくれた。


私、焦らずに先生を落とそう。
道は遠そうだけど、絶対にあきらめない!!

テーブルの下で、望美はぐっと拳を握りしめた。


終わり






[小説・リズヴァーンへ] [小説トップ]

先生の立場から見ると
「将を射んとせば……」という諺を体現したような話でしたが、
また同時に、先生は絶対に据え膳は食わない人だと思います(確信)!

紳士の鑑なのかストイックなのか礼節の塊なのか自分を厳しく律しているのか、
………単に天然なのか……?
とにかく、そんな先生が大好きです。

望美ちゃんの立場からすれば、
たとえエンド後でも、華燭の典にたどりつくには、
先生をもう1回攻略しないと…ですね。
望美ちゃん、がんばれ。


2012.05.23 筆