ほしいものは……

リズヴァーン×望美「迷宮」ED後背景



片隅に置かれた年代物のアップライトピアノから、
静かな音楽が流れている。
店の雰囲気にふさわしい、控えめな演奏だ。

カウンターのお気に入りの席に座り、
リズヴァーンは一人、グラスを傾けている。

望美の世界にも少しずつ慣れてきた。

酒壜の並ぶ棚の前でグラスを磨いているマスターとも、
ピアノを弾いているクマのように大柄な男とも、もう顔なじみだ。

夜が明るいことも、人々を乗せて走る様々な乗り物も、
遠く離れた地の出来事を知る不可思議な仕掛けも、
一つ一つに驚きながらも受け入れ、利用することができるようになった。

初対面の人々の顔が時に一瞬固くなるのは、鬼を忌み嫌っているのではなく、
リズヴァーンを外つ国からの来訪者と思い、
言葉が通じないことを案じているためだと理解できた。

労せずして食物が手に入り、家にはあたたかな寝床があり、
たっぷりの湯で沐浴することもできる。

そして時にはこうして、
隠れ家のような店で芳醇な酒を味わうこともできる。

――心地よい世界だ。
だがそれゆえに……

馥郁とした美酒の香りの中で、
リズヴァーンは顔を曇らせている。

――私は多くを望むことを覚えてしまった。

手の中には、細長いからくりがある。
いつでも望美と、「でんわ」や「めーる」で連絡をとることができる、
不可思議にして素晴らしいものだ。

二人が共に過ごせるのは望美の休日だけ……。

望美は、「もっと先生に逢いたい。
もっと長く先生といたい」……と訴え、
逢えない日には、何度も「めーる」を送ってくる。

夜には「でんわ」でおやすみを言い、
朝にはおはようの言葉を交わす。

その願いを叶えたいと思う。
一緒にいたいという想いは、リズヴァーンも同じだ。

だが、望美はこの世界ではまだ勉学の途上にある学生。
両親の元にいて、きちんと学校に通うのは望美のために必要なことだ。

「神子、学びは大切だ。
私より、まず学びを第一としなさい」

しかし、望美を諭しながら、リズヴァーンは己自身をも諭している。

望美と離れている時間――
神子を待ち続けた三十年を思えば寸刻とも言える時間が、
無限のように長く感じられるのだ。

小さなからくりで望美といつも繋がっているゆえに、
かえってひりひりと渇いている自分がいる。

私は………幸せを与えられたゆえに堕落してしまったのか……。

その時、掌のからくりが小さく震えて、
望美からの「めーる」が届いた。

【もうすぐ先生のお誕生日ですね。
お祝いのプレゼントをお贈りしたいのですが、
どんなものがいいか、とても迷っています。
先生の好きなものが一番いいと思いますので、
ご希望がありましたら、ぜひ教えて下さい】

リズヴァーンは、グラスに残った最後の一口を喉に流し込み、
己の想いをそのまま返信した。

【その日は私の家に来てほしい。私が望むのは、物ではない】



―――そして、一月九日

「プレゼントが私だなんて、うれしいけど、何だか恥ずかしいです」
「恥じることなどない。
頬を染めた神子も、愛らしい声も、この上ない贈りものだ」

「でも、本当にこれだけでいいんですか?
写真撮って、『先生、望美です』って言ってる私の声を録音するだけで……?」

「無論。
これでいつでも神子の姿を見て、声を聴くことができる。
待ち受け画面と着信音にも設定してよいか」

(思いっきり期待して気合い入れて来たけど 先生はやっぱり先生だった…。
まあ、いつものことなので)
問題ないです (でもいつか落とす!!)



終わり






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先生のお誕生日SSでした。

雰囲気は全然違う(と思う)けど、
2012年の時のあとがきがそのまま当てはまることに気がつきました。
以下、コピペしてみます。

ここから………

紳士の鑑なのかストイックなのか礼節の塊なのか自分を厳しく律しているのか、
………単に天然なのか……?
とにかく、そんな先生が大好きです。

望美ちゃんの立場からすれば、
たとえエンド後でも、華燭の典にたどりつくには、
先生をもう1回攻略しないと…ですね。
望美ちゃん、がんばれ。

………ここまで

地の玄武さんは、マジメに真剣にズレてくれるところが、
可愛いくてたまらんのです。

で、関係ないけど、背景のバーは、る・いーだです。
ちょっとしたこだわりです。


2016.01.09 筆    2016.03.14 【日記】から【小説】に移動