「わあっ、いい景色」
望美は思わず声を上げた。
見晴らしのよい高台の茶屋。
リズヴァーンとここに来るのは、二度目になる。
「急な階段が続いたが、大丈夫か」
「平気です。
それより、先生とまたここに来られたのが、うれしくて」
「そうだな。神子とは昨年の冬以来だ」
その言葉を、望美は聞きとがめた。
「え? 私とは…って、先生は誰かと一緒に…?」
「いや、禅の修行の後に、時折一人で来るのだが、
何か問題があるのか、神子」
望美は慌ててかぶりを振った。
「い、いいえ、そんなことないんです」
そして、いぶかしげなリズヴァーンの顔を見て、小さく付け加えた。
「先生って、とても素敵だから…その…モテそうだし…」
「もて…そう…とは?
それが神子を不快にするならば、改めねばならぬ。
意を教えてほしい。」
自分でも、顔が赤くなるのが分かる。
「すみません…。私の勝手な思いこみでした」
うつむいた望美に向かい、リズヴァーンは微笑んだ。
「ならばよい。
ここから見る風景は心和む。
お前が望むなら、これからはいつも一緒に来ることにしよう」
「あ、ありがとうございます!」
そう言って顔を上げた時だ。
何匹ものリスがこちらに走って来るのに気づいた。
「あ、またリスですよ、先生」
「そのようだな」
リスたちは躊躇いも無く、リズヴァーンの身体を駆け上がる。
しかし、望美が近づくと、一斉に鼻をひくつかせ、毛を逆立てた。
「な、何? 私のこと嫌ってるの?」
「キィィッ!」
リズヴァーンの頭の上に乗ったリスが鳴き声をあげた。
すると、あちらこちらの木陰から、リスが次々に姿を現す。
「え? リスが、あんなにたくさん…」
驚く望美の目の前で、リスは次々とリズヴァーンに取りついた。
まるでリズヴァーンが、リスのフード付きコートを着たようだ。
「先生! 大丈夫ですか?!」
「問題ない。私のことを、相変わらず木だと思っているのだろう」
「でも暑そうです」
「修行と思えばよい」
「何の修行ですか」
「………」
「もうっ! 先生から離れて!!」
望美が近づくと、リスたちは敵意をむき出しにした。
唇をめくり上げて威嚇するもの。
毛を逆立てるもの。
中指を立てるもの。
あっかんべぇをするもの。
背中を向けて、お尻ペンペンしてみせるもの。
ここまでされては、望美も腹が立つ。
「何よっ! 失礼ねっ!!」
リズヴァーンが、リスの中から言った。
「私に付いた神子の匂いに反応しているのだ。
縄張りを荒らされたと思ったのだろう」
ブチッ!!!
「神子、何の音だ」
「キレた音です。
先生、やっぱりモテモテじゃありませんかっ!!!」
「?????」
望美 VS リスの軍団
一触即発!!!
その時
ぱらぱらぱらと、リスたちが地面に落ちた。
リズヴァーンが消えている。
「キ?」
「キィ…」
「先生…?」
望美とリスたちは、きょろきょろと辺りを見回した。
「神子、行こう」
耳元でリズヴァーンの声。
と、次の瞬間、望美の姿も消える。
縄張りの木も、シマを荒らす不届き者もいなくなり、
リスたちは、帰っていった。
「もうっ!!
あの図々しいリスってば、許せない〜〜〜」
その日は一日中、望美の怒りが解けることはなかった。
「もてる」とは、
動物になつかれること…なのだな。
一人納得するリズヴァーンであった。
望美ちゃんの、ズレたヤキモチ暴走編でした。
一部始終を見ているはずの、
お茶屋の従業員さんの反応が気がかり(笑)です。
この後、お出入り禁止にならないといいですね。