VS 可愛いもの



「ね、先生、可愛いでしょう」

玄関を入るなり、望美はにこにこしながら、小さな黄色い物体を差し出した。

神子の大事な物なのだろう。
リズヴァーンは、そっと受け取る。

布でできた、柔らかな感触。
動物の形を模している。
この種のものは、確か「ぬいぐるみ」…というのだった。

しかし、見たことのない動物だ。
このように、鮮やかな色をした獣がいるのだろうか。

頬に赤い円状の模様。
兎のように長い耳をしているが、
ぽってりとした体型は明らかに兎ではない。
尾が角張って幾重にも曲がっている。
背中には茶色い縞模様がある。

つぶらな瞳。
口元はまるで笑みを浮かべているようだ。
童の顔に、どことなく似ているか。

たしかに神子の言う通り、これは可愛い様子をしている。

ぬいぐるみを望美に返し、リズヴァーンは尋ねた。
「神子、これは、何という動物なのだ?」

望美は嬉しそうに説明を始めた。
「ええと、ピカ中は、実際にいる動物じゃないんです。
ゲームの中で、主人公と一緒に旅をする、
とても賢くて可愛いモンスターなんですよ。
ピカ小、ピカ中、ピカ大って順に進化して…」

リズヴァーンの顔に?????が浮かぶ。
それには気づかず、望美はピカ中に頬ずりしながら、さらに話し続ける。

「小さい頃やっていたゲームなんですけど、
またやってみたら、なんだかハマっちゃって…
とにかく、このピカ中が、とってもかわいいんです!!」

そう言って、望美はピカ中を、むぎゅっと胸に抱きしめた。

すると
「ピ…カ…」

ピカ中が、鳴いた。

「ああ〜!声も可愛い〜〜〜!!」

望美はピカ中のお腹をポチッと押した。
「ピィ…ピッカッ中!!」

「ね、こうすると、いろんな声を出すんです」
望美はピカ中をうっとりと見つめながら、
頭を撫でている。

心なしか、ぬいぐるみも嬉しそうな表情をしているようだ。

「………」

「あの…先生…ピカ中は、嫌いですか?」
「……いや、そうではなく…」
一瞬、間を置いて、リズヴァーンは答えた。
「神子、茶を淹れるが、うがい、手洗いはすませたか?」
「あ、まだでした」

望美は席を外し、リズヴァーンとピカ中が残った。

座卓にちょこんと乗ったピカ中のお腹を、押してみる。

「ピィィ…ピッカッ」
「………」

一人と一匹の目が合う。

「………」
「……………」

ポチッ
「ピッ…ピィィッ」
「……………」

「………」
「……………」

ポチッ
「ピィカァ…中ゥゥゥッ!!!」
「……………」

「………」
「……………」

ころん…
ピカ中が転がった。

「………♪〜………げほげほっ」
意味もなく咳払いする。



「先生〜、お湯が沸いてます」
台所から、望美の声がする。

「うむ。今行く」
リズヴァーンは答えると、
おもむろに、倒れているピカ中を起こした。






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拍手でリクエスト頂いた、「VS 小さきものたち」の逆バージョンです。
望美ちゃんがなつかれているのではなく、
望美ちゃんが、何かをうんと可愛がると?…という話になりましたが、
小白龍ピカ中よりも
先生のヤキモチの方が、可愛いような。

望美ちゃんも有川兄弟も、きっと「あの」ゲームはやっているはず。
ちなみに、将臣くんのお気に入りは鬱ボットとか、サボ寝アとか?(爆)。

「兄さん、なんでこういうのばっかり育てるんだよ」
「いいだろう、俺は、こいつらが気に入ってんだ」
「勝ちにこだわる兄さんにしちゃ、珍しいよな」
「何でだろうな。このゲームじゃ、負けっぱなしだ。ヤな感じだぜ」
とか……。


2007.12.26 拍手から移動