修 行(望美編)

(リズ×望美・「迷宮」ED後)



「そういえば先生…」
突然、望美が言い出した。

「何だろうか、神子」
「覆面は、もう持っていないんですか?」
「いや、しまってあるだけだ」
「じゃあ、あの世界の服と一緒に消えたわけじゃないんですね」
「うむ。白龍に願って残してもらった。
あれは私の身体の一部のようなものだから」

望美はにっこり笑った。
「よかった」
「神子がよかったなら、よかった」

「先生、お願いがあります」
「言ってみなさい」
「私、先生の覆面をしてみてもいいですか」
「神子が覆面を? なぜ、そう望むのだ」
「先生の覆面て、すごくかっこいいなあ、って、ずっと思ってたんです。
だからちょっと真似したくて……」

「私の…真似か?」
「いけませんか?」
「それがお前の選択ならば」
「わあっ!ありがとうございます!」

覆面を手渡されると、
「じゃあ、さっそく♪」
望美はくるりと自分の顔に巻き付けた。

しかし、すぐに覆面はするりと落ちてしまう。

「う〜〜ん……、うまく結べない…」

「こうするのだ、神子」
リズヴァーンが慣れた手つきで覆面をさばいた。

がさごそきゅっ

「あ♪ これならどんなに動いても取れませんね」
「だが、神子の声が、くぐもって聞こえる」
「先生の声は、覆面しててもしてなくても同じに聞こえます」
「内容が正確に伝われば、問題ない」
「いいえ、先生の声が変わったら、大問題です」

望美は元気よく立ち上がった。
「先生、せっかくですから、今日はこのまま稽古をしてもいいですか」
「覆面をつけたままで剣を振るうというのか」
「はいっ! こうしてると、何だか先生にもっと近づけそうな気がして」

…………ぽ…………

「あれ?先生、どうしたんですか?顔が赤いですけど」
「ごほごほ…神子は気にしなくてよい。
お前が望むなら、このまま稽古をつけるが、無理は禁物だ。
辛くなったらすぐに言いなさい」

「はいっ!」
でも…?辛くなるって何だろう?
そう思いながらも、望美は張り切って稽古を始めた。

「どこからでも打ちかかってきなさい」
「お願いします!!
はあっ!やあっ!」

「踏み込みが甘い」

「とおっ!えいっ!」
「態勢を崩すな。回り込まれるぞ」

望美の目の前の景色に、白い靄がかかってきた。
あれ? なんか変だ…。
でも、がんばらなくちゃ!

「はあ〜 へひ〜 ふにゃ〜〜〜」
「神子!」

よろけたところを、力強い腕が支えてくれた。
「あ…先生……すみません…」
「大丈夫か、神子」
「す、少し息苦しいです。それに、暑くて…」
「覆面を外すぞ」

ぱさ…

「ああ〜〜〜〜新鮮な空気が…おいしい。
覆面つけて戦うって、すごく大変なことだったんですね、先生。
それなのに私、わがまま言っちゃって」

「……すまぬ、神子」
「え?どうして先生が謝るんですか」
「覆面をつけたままで動くのが、とても苦しいものだということを知っていながら、
私はお前に稽古をつけてしまった」

「でも、私がお願いしたことです」
「いや、私が止めるべきだった。
初めて覆面をして戦ったときの辛さを、私は忘れていたようだ。
すっかり慣れてしまったから…」

「でも、今は覆面していても何ともないんですよね」
「無論」
「じゃあ私も、もっともっと修行して
先生みたいになれるように頑張ります!」

「いや、神子は…そのままでよい」
「そうですか?」
「神子が覆面をしたら、私には神子の顔が見えなくなる」

「先生…」
…………ぽ………

「む?神子、どうした?顔が赤くなっている」
「ごほごほ…先生は気にしなくていいです。
それより、大事な覆面を貸してくれて、ありがとうございました」

「礼は不要だ」
そう言うと、リズヴァーンは望美が畳もうとしていた覆面を手に取った。

がさごそきゅっ

「あれ?先生、その覆面は…」
「久しぶりに、私も覆面をして稽古してみようと思う」
「でも、私が使ったものですから、洗ってお返ししないと…」

「問題ない♪」

そう答えると、リズヴァーンは素振りを始めた。

いつも以上に鋭い動きの理由を問うのは、
意地悪というものだろう。



* * * * * * * * * * * * * * * * * *


「先生の心肺能力が高いのは、覆面のためでもあるんですね」
「心配能力?
神子を思うゆえのことだが」






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リズ先生は可愛い!!
と主張したくて書きました。

平和な現代の鎌倉で望美ちゃんと一緒なら、
きっとこんな一面も見せてくれるんじゃないかな…と。

可愛い先生をお楽しみ頂けるとうれしいです。



2008.12.02 拍手より移動