雨上がり

(景時×望美・十六夜エンド後)








雨上がりの庭に立てば、
空気は梅の香を含んで、しっとりと柔らかい。

軒先から、木々の葉末から、雫がきらめきながら落ちる。
隠れていた雀たちが、さえずりだした。
雨に洗われた空は、高く、深い。

暦は違っても、春という季節はどちらの世界も変わらない。

君が香袋を作ってくれたのも、梅の香りのするこんな季節だったね。

景時は、懐に手を当てた。

そこには、香りの失せた小さな袋がある。

君は、笑うかもしれないね。
でも、オレは、これを捨てるなんてできなかった。

たった一人になっても、
地の白虎の玉を失っても

だって、君のあたたかな心を、踏みにじるみたいで……。

おかしいよね、オレ、自分が裏切ったのに
この手で、君に銃を向けたのに……。



湿った土を踏む、軽やかな足音がした。

「景時さん」
「望美ちゃん」

手を広げて、真っ直ぐに飛び込んでくる望美を、抱き留める。

「来てくれたんだね」
「だって今日は、景時さんの大切な日ですもの」

望美は背伸びして、景時の耳にささやいた。

「お誕生日おめでとう、景時さん」

「ありがとう、望美ちゃん」

自分に向けられた寿ぎの言葉が、少し照れくさい。
その言葉を紡いだ唇が、愛おしい。


「おいしいケーキ屋さんを見つけたんです。
景時さんの好きなの、選んで下さいね」

「じゃあオレは、飛びっ切りおいしいこおひいを淹れるよ」

水たまりをよけながら、君と手をつないで歩く。

君の笑顔が、春の光の中を行く。

オレはそんな君がまぶしくて、
幸福で心が痛いくらいで。

望美ちゃん、
オレは……

君といるこの時があるから、
今はこんなに穏やかに……信じることができるんだよ。

明日はきっと、いい日だって……。







2008年、景時さんのお誕生日SSでした。
忙しさのあまり、今年はパス!と、あきらめかけたところに、
景望道一直線の「月下の紫陽花」様で、こちらの絵に出会いました。

二人の幸せそうな光景を見て、
とたんに、ピキィィィン!と脳みそに降りてきたのが、この話です。

拍手から移動するに当たり、主宰水月様のご厚意により、
素敵絵を拙文と一緒に掲載させて頂きました。
この場を借りまして、深謝いたします。

おめでとう、景時さん。
望美ちゃんと、いつまでも幸せに!!


2008.4.5 拍手より移動



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