必需品

(景時×望美)



冬の陽射しが少し傾いてきた。

パンパンパン・・・。
小さな庭に、布団をはたく音が響く。
「あ〜♪お日様の匂いがするな〜」
景時は干した布団を抱える。
回れ右をすれば、すぐに濡れ縁にあがれるような狭い庭。

履き物を脱ごうとして、庭に入ってきた軽い足音に振り返る。

「やあ、望美ちゃん♪」
「こんにちは、景時さん」

望美は部屋の中にこたつがあることに気付いた。

「あの、もしかして、2台目のこたつ・・・ですか?」
「うん、そうだよ」
「今度は、分解したり、してませんよね」
「やだなあ、さんざん君に叱られたんだから、もうそんなことしないよ」
「あれ?私、そんなにひどく怒ったりしてませんよ」
「ええ〜っ?!あれで・・・・ひどくないの?」
「もちろん。私が本気で怒ったら、あんなものじゃすまないです」

「・・・・・・はは・・・ははは。この話題は、もうこれくらいでやめとかない?」
「景時さん、顔色が悪いですよ」
「いや、今日は寒いからね、ははは・・・」
「じゃあ早く、部屋に入りましょう」
景時のうろたえぶりを訝しく思いながらも、
望美は景時と一緒に、濡れ縁から部屋に上がり込んだ。


「うーん!やっぱりこたつっていいですね」
「そうだね〜、冬の必需品!だよ♪」
「景時さん、あっちの世界では、お腹周りが寒そうでしたから、
あの時にこたつがあるとよかったですね」
「望美ちゃんは今でも、足とか寒そうだけど」
「制服は慣れてるから平気です。でも、足が暖かいと、何だか幸せですね」
「うん!本当にそうだよね〜♪」

こたつなど知らなかった景時だが、
有川家に居候する内にその心地よさにすっかり虜となり、
一人暮らしの家に引っ越す時には、
餞別代わりに古くなったものをもらい受けるほどだった。

が、つい先日のこと、
生来のからくり好きの虫がむくむくと頭をもたげ、

「景時さん、やめておいた方が・・・」
「大丈夫♪ 注意書きに書いてあるみたいに、『ひいたあ』で
お餅焼いたりしなければいいんでしょう?」
「勝手に分解するのもいけないって書いてありますよ」
「ふんふんふ〜ん♪」

がちゃがちゃぎちぎちことんがたん・・・

「あーっ!バラバラじゃないですか。戻せるんですか?」
「へえ〜♪こんな風になってるんだぁ〜♪♪」

がちゃ・・・がちゃ・・・がたがたがた・・・・
「景時さん・・・この部品、余ってますよ」
「あ、あれ〜?変だな〜・・・」
「どうするんですか?」
「ええ・・・と、もう一度分解して組み立て直してみるよ」

がた・・・ぎち・・・がちゃん・・・

「今度は部品が3つも余りました」
「はは・・・ははは・・・おかしいな〜、どうしたのかな〜」

「景時さん・・・」
「は、はい。何?え、望美ちゃん・・・・?」
???!!!
「う、うわああああ・・・ひえ〜・・・・・ごめんなさ〜い」


いつもはとても可愛いのに、怒った時の望美ちゃんは、本当にこわい。
そういえば、朔もふだんはおとなしいけど・・・・。
あ〜、オレって・・・・。
と、台所でお茶を淹れながら、景時が幸せなため息をついた時、

「あれ、ここにあるスイッチは何ですか?」
望美が、こたつの足についた装置をのぞき込んでいる。
「え?わ!だめ!そのすいっちは入れちゃだめぇっ!」

かちっ!
うぃぃぃん

「かっ、景時さんっ!今、変な音がっ・・・」
「望美ちゃん、すぐ、すいっちを切って!」
「は、はい・・・・ん?・・・あれ・・・」

うぃぃぃん
ずりずりずり

「きゃっ!!こたつが動いた〜!」
ずりずりずり
こたつは逃げ回る望美を追って、布団ごと部屋の中を移動している。

「スイッチ切っても止まらない〜!いやぁ〜!!」
「待ってて、すぐこんせんとを・・・あれ?」

うぃぃぃん
ずりりっずりりっ
すりすりすり

「コンセント抜いても止まらないって、ホラーですか」
「いや、法螺じゃなくて」
「どっちでもいいから、早く止めてぇ!!」

こたつは望美になついてしまったようだ。
布団もぎゅっと、望美に巻き付いている。

そんな様子を見て、
「なんかオレ、無性に腹が立ってきちゃったなあ。
望美ちゃん、今、助けるからね!!」
景時は陰陽術の銃を取り出し、こたつに向けた。

「止まれ!」
ぼしゅわぁぁっ!!

こたつは派手に煙を上げ、おとなしくなった。

「ふう〜っ。よかった」
「よくありません」
望美がこたつから這い出してきた。

「景時さん、説明してもらえますか?」
「ごめんね、望美ちゃん。怒ってる?」
「・・・・・・・・・・・・喜んでいる・・・・とでも?」
景時はすくみ上がった。
「え、え〜とね、こたつって、一度入っちゃうと、出たくない・・・・でしょ?」
「・・・・・・・・・・それで?」
「だから・・・・こたつが、オレの後をついてきてくれたら、いいかなぁ〜って」
「で、また不正改造したんですか?」
「い、いやあ、前に一度失敗してるから、
陰陽術を適当に取り混ぜてみたんだけど・・・・・」
「・・・・・・適当に?

「ちょ、ちょっとね、望美ちゃんと一緒にこたつに入りたいなあ・・・とか
考えながら、術をかけたんだけどね〜・・・」
「じゃあ、あのこたつは景時さんの願望なんですか?」
「ま、まあ、そういうことかな」
「あのこたつ、動き方がセクハラっぽかったんですけど」
「せくはらって?」
「抱きついたり、あちこち撫でたり・・・とか」
「ええ〜っ?!!そ、そんなこと・・・されたの?悪いこたつだね〜」

「景時さん・・・」
「は、はい。何?え、望美ちゃん・・・・?
え???また???」
「いいえ!今度は本気で怒ってます!!!」
「う、うわああああ・・・ひえ〜・・・・・ごめんなさ〜い」




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あとがき

なぜか、景時×望美でお笑いを書くと、
このようなテイストになってしまいます(苦笑)。
景時さんて、地白虎のかっこよさもヘタレも、どちらも似合うニクイお方。

このままでは、ギャグ専科になってしまいそうな勢いですが、
リズ×望美長編「果て遠き道」の第4章第2話で、かなりカッコいいシーンがございます。
また、拍手のバレンタイン特集でも、唯一、シリアス路線で頑張って頂いておりますので、
景時さんファンの神子様は、お口直しによろしければそちらもご覧下さいませ。

2007.2.17筆