明日はきっと



「ふんふんふ〜ん♪」
洗濯物を干していると、つい景時さんの真似をしてみたくなる。

晴れた日は、洗濯物がよく乾く。
青くて高い空を見上げて、望美はうーーーーん、と伸びをした。

「望美、少し休まない?」
朔がやってきた。

「いつも悪いわね、洗濯を任せてしまって」
「そんなことないよ。景時さんはほめるてくれるけど
あの域にはまだまだだし」
「まあ、望美はそこまで洗濯にこだわっているの?」
「もちろん!」

陽射しが強い。
母屋へと歩きながら、望美は汗ばんだ額を拭った。
「今日も暑いね」
「そうね。まるで夏のようだわ」
「おかげで洗濯物はよく乾くんだけど」
「この調子で雨が降らないと、望美はいつまでも洗濯を休めないわね」
「うーん、私の腕が上がりまくっちゃうかも」
「ふふっ・・・望美ったら・・・」

朔と他愛ないおしゃべりをしているところに、
「ただいま〜」
景時が帰ってきた。

「おかえりなさい、景時さん。今日はずいぶん早いですね」

あれ?景時さんの顔・・・・青ざめてる・・・・
「景時さんっ!気分でも悪いんですか?大丈夫ですか?!」

「いや、何でもないよ」
景時は素っ気なく言うと、庭の片隅の小屋に入り、
「俺がいいって言うまで、一人にしておいてくれないかな」
扉をぴしゃりと閉めてしまった。

「景時さん・・・」
「兄上・・・」
望美達は、驚いて固まっている。

「景時さん、不機嫌?」
「兄上のあんな顔、初めて見たわ」
「私・・・何か悪いことしちゃったのかも・・・。
小屋に突入して、強制的に謝ってくる!!」
「待って、望美」
朔は慌てて止めた。
「止めないで!朔」
「兄上は今、一人になりたいのよ。
その気持ちを大事にするべきではないかしら」
「・・・・・そうだね」
望美はしょげ返った。

太陽が南に高く上り、西に傾いた。
夜になり、月が出ても、景時は小屋に籠もったまま。

「どうしよう、景時さん、すごく怒ってるんだ」
「どうかしら、不機嫌そうだったけれど、怒ってはいないと思うわ」
「朔には分かるの?」
「ええ。だって私、兄上に怒られたことが無いのですもの」
「兄妹げんかを、したことがないの?」

朔は心なしか、赤くなったようだ。
「そうね・・・私が何をしても、兄上は怒らなかったわ」
「ふふっ、朔も小さい頃はいたずらをしたんだね。
ねえ、どんなことをしたの?」

朔はますます赤くなった。
「た、たいしたことじゃないのよ。
ただ・・・眠っている兄上の顔に落書きしたり、
お馬さんになってもらって、髪の毛を手綱代わりにしたり、
兄上の作ったからくりを壊してしまったり・・・とか」

「・・・うっ!」
自分の悪行を思い出し、望美の良心がズキズキ痛む。
眠っている景時さんの身長を見誤って、踏みつけてしまったり、
寝惚けて景時さんを投げ飛ばしたり、
部屋を掃除しようとして、からくりを全壊してしまったり・・・とか。

ど、どうしよう?!
「君とはもう、やっていけないよ〜」
なんて言われたら・・・。

「景時さん!!ごめんなさい!!」
望美が、小屋に向かって走り出した時、

しゅぼわわわわ〜んっっっ!!!!

小屋から盛大に煙が上がった。
続いて、

ざざざざざざざざざーーーーーっ!!

大量の水の流れ落ちる音。

「景時さん!!今助けます!!」
「兄上!!」

望美と朔が小屋に駆け寄った時、
「うわ〜、失敗しちゃったよ〜」
景時が、小屋から出てきた。

全身びしょ濡れで、前髪が顔にぺたりと張りついている。

「景時さん・・・あの・・・」
望美が声をかけると、
景時はガバッとひざまずくなり、望美にすがりついた。
「お願いだ・・・。オレと一緒に・・・・・逃げてくれ」
「えっ?!な、何っ?!」
前にもこれと同じようなシチュエーションがあったような?
で、その結果といえば・・・。

しかし今回は、朔がいた。
「兄上!!しっかりしてくれなくては、困ります!!」
「は・・・はひ〜っ!!!」



遅い夕餉に向かいながら、景時はこれまでの経緯を語った。
「ええっ?また神泉苑で雨乞いの儀式を?」
「それで望美に、舞を・・・という依頼が来たのね」
「望美ちゃんには、雨を降らせた実績があるからね〜。
でもだからって、あの法皇の前で舞うことなんて、絶対にないよ!!」

「要するに、兄上のヤキモチなのね」
「ちょっと、うれしいです。
でも法皇様に逆らったりしたら、景時さんの立場が悪くなるんじゃ・・・?」
「そんなこと、関係ないよ!
だから、きっぱり断ったんだ」
「まあ、兄上も頼れる時があるのね」
「でも・・・あきらめてくれないんだよね〜。
しつこく使いを寄越すんだ」

・・・望美に雨を降らせた実績があるなら、
あの法皇には、望美を召し抱えようとした実績がある。
九郎の機転で一度はあきらめたようだが、
今回わざわざ舞手に望美を指名してきたということは、
十分に危険だ。

「それで、景時さんは小屋で何を」
とたんに景時はしょんぼりした。
「雨を降らせる術を編み出そうとしていたんだけど・・・
はあ〜、オレって肝心な時にダメなんだよね。
儀式はもうすぐなのに」

すると望美はにっこり笑って言った。
「それなら大丈夫ですよ、景時さん。
明日、雨が降りますから」
「ええ〜っ?!」
「両手を上げて驚かないで下さい」
「本当なの?望美」
「うん。降水確率90パーセントだよ」
「コウスイカクリツ・・・?」
「ぱあせんと・・・?」
「とにかく、大丈夫!」
望美はドンと胸を叩き、げほげほと咳き込んだ。



翌日・・・
法皇からの使者に向かい、景時はきっぱりと言った。
「コウスイカクリツ九十ぱあせんとで本日雨が降りますゆえ
我が妻の舞は必要なきこととなりましょう」

そして間もなく、乾いた空から大きな雨粒が落ちてきた。


「すごいよ〜!!望美ちゃん!!」
「よかったわね、望美も兄上も」
喜ぶ景時と朔を尻目に、望美は雨の降りしきる外を見ている。
「ふうん、やっぱり当たるんだ」

「当たる・・・って何が?望美ちゃんの予感のこと?」
「龍神は雨を司るものだわ。白龍の神子だった望美には分かるのね」

「え?そんな大げさなこと、できないよ。
でも、昨日の夕方、景時さんを待っていてヒマだったから、
これを使ったんだ」
そう言って望美は、土間に置いてある自分の靴を取り上げた。

「え・・・」
「何・・・」

「これをね、放り投げるの。裏返しになったら雨ってことなんだ」」
「・・・で」
「投げたんだね」

「うん。10回投げて、9回裏返しになったから、
降水確率90パーセント」

ばたっ!!
景時が倒れた。

「か、景時さんっ!大丈夫ですかっ?!
あれ?朔もどうしたの、頭が痛いの?風邪?」

気絶した景時に、今度ばかりは突っ込めない朔だった。










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あれよあれよと思っている間に、15000打を越えました。
ご来訪の神子様方へ、心から感謝申し上げます。
また、15000打お礼リクにご協力下さった皆様、
本当にありがとうございました。

リクエスト内容から、ギャグが好評、との感触がありましたので、
この話もギャグ仕様でまとめてみました。
前髪が下りて(←ここがポイント)、水も滴るいい男・・・な景時さん、
いかがでしたでしょうか。

当初、望美姫救出夢落ちパラレルを構想していたのですが、
「朧月夜」が・・・・・(爆)。痛たたた・・・。
ベースは「カリ城」なので、ストーリーが全く違うとはいえ、
姫・夢落ち・一人称と、カブり過ぎでした。
ついてないんだよね〜。
「迷宮」の頃からあたためてきたネタなので、未練たらたらです。
早く書いておくべきだった・・・(苦笑)。

2007年4月23日筆