お留守番

(景時×望美・迷宮エンド後)



「晴レタ日ハ、洗濯物ガヨク乾クネ」

ご主人様の干していった洗濯物が、
ボク達のいる池の中からもよく見える。

青い空に白い雲、時々そよ風。
洗濯物も、きっと気持ちがいいんだろうな。

隣で鯉クンが、はねた。
ピョン、チャプン、ピチャン。
そうだねって、言っている。

「オ留守番、ガンバロウネ」
ピョン、チャプン、ピチャン。

ボク達は式神同士だから、ちゃんと話ができるんだ。

鯉クンは、はねて。
ボクは、チッ、キッ、キュッっと小さな声で。


殺気を感じたのは、その時だ。

ボク達が水に潜るのと同時に、黒いモノがさっと水面を掠めた。

「ミギャアアアッ!!」
凶暴なかぎ爪を剥き出しにして雄叫びを上げたのは、
ガラの悪い、キョウヨウのカケラも無さそうな猫だ。

一度の失敗で諦める気はないらしい。
今度は堂々と池の縁に居座った。
油断なくボク達の様子を窺っている。


鯉クンが猫を見て、それからボクに向かって尾ひれを動かした。
ボクはうなずく。

鯉クンも気がついたんだ。
コイツには、見覚えがある。
ご主人様が海で釣ってきたおサカナを
くわえて行ったドラ猫だ。

ハダシのままで追いかけようとしたノゾミさんを止めるのに、
ご主人様はとても苦労したんだ。
何しろ、ノゾミさんは、とてもツヨいから…。
後でご主人様は、体中に湿布のクスリを貼っていた。


ソイツが今、鯉クンを狙っている。

鯉クンは、怨霊に食べられたことがあるんだ。
また食べられるなんて、ゼッタイにダメだ!


ドラ猫が動く気配はない。
池の水はとてもきれいで透き通っているので、
深く潜っていても、鯉クンの動きはすぐにわかってしまう。

でも、ボクの身体は目立たない。

ボクはそっと池から這い出し、
庭を大きく回り込んでドラ猫の後ろに出た。

家の脇に、ご主人様がいつも使っているからくりがある。
やり方は分かるけど、小さなボクにはちょっとタイヘンだ。
でも、ドラ猫をやっつけるためだ。
弱音なんか吐かないぞ。

高い所まで頑張って登り、身体を曲げたり伸ばしたりしてからくりを回す。
震動が伝わってきた。
成功だ!

地面に飛び降り、からくりと繋がっている長い管の先を力一杯くわえた。
これ、何て言うんだっけ。
そうだ! ほおすだ!

そのとたんに、ほおすが大きく跳ねた。
水が勢いよく飛び出す。

投げ出されそうになったけど、ボクは踏ん張った。

両手両足と、シッポも使って、ほおすの先をドラ猫に向ける。

「ギギャッ!!」

いきなり水をかけられて、ドラ猫は飛び上がった。

デカい図体にしては素早い動きで水流を避ける。
すぐに、ほおすをそちらに向けようとしたけれど、
ボクの力では、押さえるのが目一杯なので、
うまくドラ猫に合わせてほおすを動かせない。

そんなボクの様子に気づいて、ドラ猫が目を細くした。
「グルッ…ミィィ」
舌なめずりしながら、近づいて来る。

ええっ?!
ボクって、おいしそうなの?

ピチャン、チャプッ!!ポッチャン!!
(「お前は、ボクを狙ってたんじゃないのか?!」)

鯉クンが池で大きくはねた。

ドラ猫の注意が、一瞬、ボクから逸れた。

ありがとう、鯉クン!!

ボクは思い切り、ほおすを回した。
そのイキオイで、洗濯物が濡れてしまったけれど、
ほおすの動きは止められない。

ぶしゅうっ
ふぎゃっ
ばしゃあっ
みぎゃっ
じゃばあっ
ひぃぃっ
びしゃあっ
きゃっ


え?

ひぃぃっ?
きゃっ?


キュキュッと、からくりを回す音がして、
ほおすの水が止まった。

ボクはほおすを抱えたまま、ひっくり返った。

ご主人様とノゾミさんが、
びしょ濡れの姿でボクを見下ろしている。

あ……
ボク……
ナンてコトをしちゃったんだろう…

「キュキッ…チィィッ…(ゴメンナサイ)」

ノゾミさんが笑いながら言った。
「謝らなくていいよ」

ご主人様も笑顔だ。
「よく頑張ったね。お留守番ご苦労さん」
「お魚泥棒をやっつけてくれて、ありがとう」

ご主人様は、ボクを池に戻してくれた。
鯉クンが無事なのを見て、ホッとしたようだ。

「こわい思いをさせちゃってごめんね。
これからは、池に結界を張っておくよ」


晴れた日は、洗濯物がよく乾く。

濡れてしまった洗濯物も、その日のうちにちゃんと乾いた。






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景時さんの式神は、どことなく可愛らしいくて、
両生類爬虫類が超苦手な真宮も、
サンショウウオくんならオッケー。

式神って、本当なら必要な時だけ呼び出すのでしょうけれど、
何せ、景時さんのこと、
こんなサンショウウオくんと鯉クンなら、
外でのんびりさせてあげるんじゃないでしょうか。

「うーん、やっぱり水の中がいいのかな。
じゃ、池を作ってあげるよ」

なんて、景時さんなら言いそうです。


そして、がんばったサンショウウオくんに一言!

めい・ざ・ほおす・びい・うぃず・ゆー!!


2007年12月22日 拍手から移動