ノエルの奇跡

リシュリュー×ダルタニアン


ノエルの前夜。空の星々は凍てついた輝きを放ち、寒風が吹きすさんでいた。
しかし、領主の館は暖炉に赤々と薪が燃え、 美しく飾り付けられたモミの木に暖かな光が照り映えている。

息子が寝付いたことを確かめたダルタニアンは、書斎で待つリシュリューの元に急いだ。 そこには、ロシュフォールもいる。
「あなた、坊やはぐっすり眠っています」
「そうか。ではそろそろよいな」
「はい、頃合いかと存じます、リシュリュー様」
「ロシュフォールさん、なぜここに?」
「リシュリュー様は、記念すべきお姿を見ることを許可して下さった。
貴様に、とやかく言われる筋合いはない」

「では二人とも、とくと見るがよい。
☆☆変☆☆身☆☆」

「わあ、以前より溜めが長くてかっこいいですね」
「おお…リシュリュー様…」
「久しぶりに仮の姿になったが、これもなかなかよいものであろう?」
「はい…。感激のあ「白いお髭をどう「貴様、賛辞の言葉を遮「よく似合いますよ」
「ふむ、付けひげはこれで問題ないようだ。ではすぐに着替えよう。
やはり、プレゼントを置くだけとはいえ、演出は本格的にやらねばな」

サンタクロースの格好をしたリシュリューは、 足音を忍ばせて廊下を歩き、子供部屋の扉をそっと開けて中に入った。
だが、そこには先客がいた。
「!!!」
「!!!」
暗い部屋の中で、二人のサンタクロースが見つめ合った。
先に言葉を発したのはリシュリューだった。 声を潜めているが、興奮の色は隠せない。
「お…おお…! あなたは、サン・ニコラ…」
もう一人のサンタクロースは、目を丸くした。
「ほうほう! わしをその名で呼んでくれるのか」
「私はかつて神に仕えていた者。 聖人を見間違えるなどあり得ようか」
「そうかそうか…わしゃぁ、うれし……痛たたた」
「どうされたか、サン・ニコラよ」
「それがのう……わしも寄る年波には勝てず…… ここまできて腰がぎっくり……」

館の上空で待機していたトナカイは、 突如煙突から見知らぬサンタクロースが出てきたことに驚愕した。
『ぎゃ〜、ニセ者〜〜〜』
慌てて逃げようとするトナカイに、 リシュリューは預かってきたプレゼントの袋を見せる。
「逃げなくてもよいぞ、トナカイよ。
私はお前の主人から代理として仕事をするよう依頼を受けた者だ。
よって、今は私がサンタクロースである」
ひらりとソリに飛び乗り、リシュリューは高らかに命じた。
「すぐに出発せよ!」
シャンシャンシャン…… 鈴の音を響かせ、トナカイに引かれたソリは夜空へと走り出す。
しかしすぐにリシュリューはぐい、と手綱を引いてソリを止めた。
「トナカイよ、私の前を走るな」
『そんなむちゃくちゃな……』
「場所を代われ。私は常に先頭を走る男だ!」
『え? ええええ? ウソッ〜〜!!』
トナカイを乗せたソリを引くサンタクロースのシルエットが、 すごいスピードで青い月を横切っていく。


暖炉の前では、ロシュフォールとダルタニアンが押し問答をしていた。
「リシュリュー様はまだお戻りにならないのか」
「ええ、まだですよ」
「何かあったのかもしれない…」
「どこへ行くんですか」
「貴様、わからないのか。私は若君の部屋まで様子を見に行ってくる」
「でも、坊やを起こしてしまうかも」
「貴様は心配ではないのか。プレゼント一つ置いてくるだけで、
こんなに時間がかかるはずがない」
「ふふっ、もしかすると坊やが目を覚ましてしまって、
あの人、サンタクロースに成り切って相手をしていたりして…」
「笑っている場合か、行ってくる!」

その時、重い木の扉が開いた。
「どこへ行こうというのだ、ロシュフォール」
そこには着替えをすませ、元の姿に戻ったリシュリューがいる。
「リシュリュー様!」
「あなた、ありがとう。坊やには気づかれなかった?」
「私がそのようなへまをすると思うか?」
「ダルタニアンの無礼な言葉など気になさる必要はありません」

ダルタニアンは、リシュリューの手にあるものに気づいた。
「あなた、なぜコートを持ってきたんですか?」
リシュリューの顔に、会心の笑みが浮かぶ。
「お前に見せたいものがあるのだ。さあ、ダルタニアン」
そう言ってリシュリューはダルタニアンにコートを着せると、バルコニーへの扉を開いた。

風はいつの間にか止んでいた。 館を取り巻く林も、その向こうに広がる緩やかな丘陵も、 夜の静寂の中に眠っている。
「ダルタニアン、これが私からお前への、ノエルのプレゼントだ」
リシュリューは空を見上げた。
「え…?」
わけが分からず上を見たダルタニアンの頬に、ひとひらの白い花が触れて、すぐに消えた。 冷たい花びらは、次々と空から舞い降りてくる。
「雪……」
「明日の朝まで降り続けるぞ」
「白いノエルになりますね。
今年は雪のない緑のノエルになると思っていたけど」
「そうだな。だから私からサン・ニコラに願ったのだ」
「……あなたって、本当にロマンチストなのね」
「白いノエルは気に入ったか」
「はい……!」
「嬉しいか?」
「もちろんです!」
「その気持ち、大胆に表してよいのだぞ」
「ええと……」
「では、私から表してやろう。 すぐ部屋に戻るぞ。
今宵は眠れぬものと覚悟しておけ、ダルタニアン」

― Fin ―
 




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