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「永遠の二人と、もう一つの物語」
ロシュフォール×ダルタニアン

収録タイトル
■ 永遠の二人
一 再会 二 ワインとぶどう 三 ワークシェア 四 恋人たちの木
■ アナザー・ストーリー
一 雪が降る  1崩れた塔 2消えた悪魔 3冷たい部屋
二 深い森の中で  1無口な客 2饒舌な御者 3森の奥の家
三 引き潮の海  1騎士 2潮騒
四 秋の日の円舞曲
五 市場(マルシェ)にて

■ 「永遠の二人」は、ゲーム本編をベースにした真ED後背景2編、
  章内エピソード1編と、公式SSベース1編の全4編。
■ 「アナザー・ストーリー」は、二人が生きたなら……という設定で、
  バッドエンドから強引に分岐させたねつ造話です。
  別離と再会とその後を描いています。


本文抜粋
※ 本では段落頭を一字下げています。

☆ もう一つの物語 「雪が降る」から抜粋

ロシュフォールの部屋は暗く、凍えるほど冷え切っていた。
かじかむ手で灯りをつけると、きちんと並べられた本棚の本、机の書類から椅子の角度まで、何もかもがダルタニアンの記憶のままだ。だが、主だけがいない。
ロシュフォールと一緒に、この部屋で寝起きしていたことが、遠い昔のできごとのようだ。あれらまだ、数えるほどの日にちしか経っていないというのに。
ダルタニアンは、あてもなく部屋を歩き回った。ロシュフォールの手が触れたもの、ロシュフォールが確かにいたという証、ロシュフォールの気配、何を求めているのか、自分でも分からない。
きっちりと整えられたベッドに、ダルタニアンはそっと手を置いた。
――ここに…先生と並んで眠っていた。夜中に目が覚めても、隣には先生がいた。それだけで安心できた。私には、ささやかな…幸せの時間だったんだ。
でも…あの時の先生は、何を思っていたんだろう。
今、同じベッドにあの時のぬくもりはなく、ダルタニアンの手から熱を奪ってなお冷たい。
――先生…私はこれから、どうやって頑張ればいいんですか。私を守るためにお父さんが死んで、なぜ先生まで……いなくなっちゃうんですか…。
見開いた目から、ひとしずくの涙が流れ落ちる。
そのことにダルタニアンは驚き、意識を取り戻してから一度も泣いていなかったことに気づいた。
――あ……私、本当は泣きたかったんだ……。きっと先生は生きているのに……生きているって信じてるのに、なぜ泣くんだろう。泣いたらだめだ。泣いてしまったら、私、崩れてしまうかもしれないから。でも………苦しいよ…胸がとても……苦しい。
ダルタニアンは腕を組み、己が胸をぎゅっと抱いた。そこには、心臓を貫いた剣の傷跡と、ロシュフォールのつけた刻印がある。死の証と愛の証、どちらも確かにこの身に受けたもの。紛れもない現実だ。
だが、ロシュフォールと再び会うためには、この現実を背負って先に進むしかない。朝に夜に、一人の時、みんなと共にいる時、どこにいても、何をしていても、心に押し寄せる喪失感と闘いながら。
ダルタニアンは、食いしばった歯の間から問いかける。
「私、頑張りますから……一度だけ……思いきり泣いてもいいですか、先生?」
返らぬ返事を待つこともなく、激しい嗚咽の声が冷たい部屋に響いた。
外は雪。白い島に、暗い海と砂州に、雪は音もなく降りしきる。
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☆ もう一つの物語 「市場(マルシェ)にて」から抜粋

石畳の広場に、今日も賑やかな市が立っている。ぴりりと冷たい朝の空気が、まだ心地よいと感じられる季節。低い陽射しが、街の教会の影を広場に落としている。店先に積まれた果物が朝日を受けてぴかぴかと光り、売り買いの声が高く低く飛び交う。
「こんにちは、おじさん、おばさん」
「いらっしゃい、奥さん。今日もご夫婦おそろいだね」
「仲がいいこって、うらやましいぜ」
「ふふっ、ありがとう。ええと、どれをもらおうかな……。ねえ、あなたはどれがいい?」
「ははっ、いいねえ。おれっちも、『ねえ、あなた』なんて相談されてみたいもんだ。……いやだめだ。気味が悪くて寒気がする」
「何言ってんのさ。あんたがこちらの旦那みたいに、ほれぼれするほどいい男だったら、あたしだってもっと女らしくなるさ」
「あ! あのリンゴ、おいしそう! あれに決めます!」
「奥さん、旦那さんの意見はいいのかい?」
「好きにしろ」
「はい♪」

青空に、ぽーんとリンゴが投げ上げられた。落ちてきた所をしっかり両手で受け止めると、ダルタニアンはリンゴにキスをする。
「真っ赤できれいなリンゴですね。何だか、白雪姫に出てくるリンゴみたい」
「貴様、それではリンゴに毒が入っていることになる」
「え? 白雪姫の話、知っていたんですか。何だか意外です。メルヘンと先生の取り合わせって……不思議」
「………教養の一部だ。それよりも」
再びリンゴが舞い、光を受けて鮮やかに光ったその時、横合いから伸びたロシュフォールの手が、リンゴをつかんだ。そしてそのまま、リンゴはロシュフォールの口に運ばれ、果肉を破る小気味よい音がする。
「あ、私のリンゴ……。先生、ずるいですよ」
「フン、毒見だ。貴様への罰も兼ねているがな」
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