果て遠き道  ― リズヴァーン×望美 ―
◆登場キャラ
◇春日望美  ◇リズヴァーン
◇有川将臣  ◇源九郎義経  ◇ヒノエ  ◇武蔵坊弁慶
◇有川 譲  ◇梶原景時  ◇平 敦盛  ◇梶原 朔
◇源 頼朝  ◇北条政子  ◇安倍泰継  ◇北山の天狗 他

 八葉以外の平家は登場しません
◆背景設定・他
◇愛蔵版発売前に書いた話です。

◇「無印遙か3」リズヴァーンED後、異世界に残る――という設定です。
 そのため、物語開始時の望美は、「十六夜記」で描かれている鬼にまつわる事柄を知りません。

◇物語中に、リズヴァーンの子供時代や「遙か」2の地玄武・泰継のエピソードなど、
 過去に溯る話も出てきます。

◇泰継の他にも、1及び2のキャラが登場します。
 ネタバレ要素もありますので、未プレイの方はご注意下さい。

◇オリキャラが出ます。(梶原党の郎等、娘の怨霊、検非違使、放免者、他)
 名前のあるオリキャラは、サイト掲載の2人→1人にしました。
◆各巻章立て
サイト掲載のものには各話ごとのタイトルはなく、章題のみついています。

上巻下巻
序 章  初 雪
1.鞍馬の冬 
2.いさかい 
3.昔日の冬 
4.野盗 

第一章  流 離
1.遠き道の始まり 
2.地の玄武 
3.夜話 
4.捕らわれて
5.京への雪道 
6.一条戻橋

第二章  遠 雷
1.暗雲 
2.譲の行方 
3.嵐山 
4.景時の書状 
5.刺客 
 
第三章  暗 鬼
1.怨霊を呼ぶ者 
2.再会
3.救出 
4.狐火 
5.代償 
6.潜む影
7.読まれた書状 
8.鳥辺野

間 章  散 桜
1.夢 
2.月明かりの下で 
3.花断ち 
4.名に籠めた思い

第四章  炎 呪
1.兄と弟 
2.兄と妹 
3.現世と冥界の狭間で
4.怨嗟 
5.鬼の力 
6.馬上の男
7.弟子
8.孤独を知る者 
9.闇の中の対決 
10.解放

第五章  闇 来
1.屈服 
2.対峙
3.集いと別れ 
4.それぞれの決意 
5.絆
6.二つの剣 
7.蘇る幻 
8.長い夜の終わり

第六章  懐 光
1.苦い再会 
2.開かれた扉 
3.最後の戦い 
4.死闘
5.神子 
6.朔の涙 
7.いとしき命に
8.雪夜 〜 短いエピローグ

終 章  春 陽
1.昔日の春 
2.別れ 
3.二人で歩く道

◆本文抜粋
※ 一部、ネタバレになる部分を変えています。
web閲覧用に横書き、段落頭の字下げはせず、改行も多めに入れています。

上巻

◇ 「第二章 遠雷 第3話 嵐山」 より

嵐の予兆を孕み、事は動き出した。
望美と自分への尾行、弁慶と梶原邸への監視、九郎と譲の失踪、
九郎にかけられた謀反の嫌疑、星の一族の館の炎上、
これらがお互い無関係に生じたとは考えにくい。
いや、全てが繋がっていると考えた方がよいだろう。
 神子と八葉を巡るこの不穏な動勢は、何を意図したものなのか。
標的は我々なのか、あるいは別の所にあるのか。

これらを繋ぐ糸はまだ目に見えない。
だがあちらで少し、こちらで少しと凶事が積み重なっていき、いつしか…。

その時、物思いに沈んでいたリズヴァーンは、
街を行き交う人々の様子がおかしいことに気づいた。
何処へか走っていく者、あちこちに身を寄せ合うように集まる者。
一様に不安げな表情だ。
郎党の一人もそれに気づいて話を聞きにいき、慌てて戻ってきた。
「街の中に、怨霊が現れたそうです!」
「そんな…」
最前の記憶がどっと押し寄せ、望美はあえいだ。
その動揺を察したのか、馬が不安そうに身体を揺らす。
リズヴァーンは、ぐらりと身体の傾いだ望美を抱きとめながら、武器を手に走っていく人々を見た。
「先生、押さえてくれて、ありがとうございます」
「……」
「先生?」
リズヴァーンは人々の向かう方を凝視している。
考え過ぎか? ただの偶然かもしれぬ……しかし…。
「あの、先生?」
リズヴァーンは、はっと我に返った。
「ああ、すまぬ。少し考え事をしていた。何か? 神子」
「先生は、あの焼け跡で何を探していたんですか?」
「あの場所で一番大切にされているものだ。あそこは星の一族の館であった。
そのことを含めて考えれば、すぐに分かるはず」
「先生、焦らさないで教えて下さい」
「今は譲の元にあるはずのものだ」
「あ…!」
リズヴァーンは望美に身体を寄せ、耳元で小さく言った。
「静かに、神子。それを言の葉に出してはならぬ」


闇の中に狐火が灯った。
揺らめく炎を背に、女の影が浮かび上がる。
女は甘く優しげな声に、残酷な毒を潜ませて笑った。
「くすくすくす…強情な子ですこと」
「…くっ……」
「早く楽におなりなさいな」
「…………」
「もう意地を張るのはおやめなさい」
「い・や・だ……」
「あなたの命を奪うのは簡単なことなのよ。
でも、あなたはまだ若いんですもの。死に急ぐことはありませんわ」
「俺は…お前の言うなりになんか…」
「まだ逆らうの? 少し、痛い思いをした方がいいようね」
「くっ!! う、ああああっっ…!!」
「ねえ、本当は怖いのでしょう? 早くお言いなさい。
龍の宝玉をどこに隠したの? ……天の白虎」



◇ 「第三章 暗鬼 第1話 怨霊を呼ぶ者」 より

京を囲む山々はまだ明るいが、辺りは少し薄暗くなってきている。
底冷えのする寒さ。朔は着物の襟元をかき合わせた。
雪が…降るのだろうか。空を見上げたその時、
「ド…コ…?」
背後から声がした。声にならない声。
朔にしか聞くことのできない、悲しみの声。
「あ…」
振り向けば、すぐそこに再び怨霊の姿がある。
「ギ…ギギ…」
怨霊は周囲を見回している。
「ドコニ…イル」
朔は胸の前で、ぎゅっと両手を握りしめた。
「お願い、黒龍。私に勇気を…」
怨霊は朔に近づいてきた。
「ナゼ…ヨブ…ドコ…」
「あなたは、誰かを探しているの?」
「ギ…オマエ、ワカル…? ドコ?」
「あなたは、誰かに呼ばれたの?」
「ギ…ギギ……」
「朔様っ!!」
その時、信直が庭に飛びこんできた。
走り入った速さを緩めず怨霊と朔の間に割って入りながら、
刀を逆手に持ちかえ、怨霊に突き刺す。
「ギ…ギ…」
 怨霊の身体が崩れていく。続けてもう一太刀。
「待って!!」
「朔様?」
さらに斬りかかろうとしていた信直が、直前で手を止めた。
「お願い…教えて」
「ギ…」
怨霊は、少し首を傾げたように見えた。そしてそのまま、音もなく土に吸い込まれて消えた。
最後の一言を残して。
「オ…ニ…」と。



下巻
◇ 「第四章 炎呪 第2話 兄と妹」 より

「ほう、否定せぬとは図星であったか。
これ以上の詮議は無駄じゃ! この女を牢に繋いでおけ!」
「し、しかし…」
「別当様、こちらは源氏の…」
「情けなら、もう十分にかけたであろう。まだ縄も打たずにいるのだぞ。
だが鬼にたぶらかされた者に、これ以上の遠慮は無用。
京を守るのが我が検非違使庁の務めじゃ」
「…はっ。…けれど」
「そのぉ…もうしばしの吟味が必要では…」
「何だお前達、この裁きに不満でもあると」
別当が声を荒げたその時だ。

「オレは大いに不満だよ」
突然、前庭からよく通る声が響いた。
「あ…?」 朔が驚いて振り向く。
声の主はゆっくりと廊下に上がり、詮議の部屋に入ってきた。
立ち上がりかけた朔を目で制し、小さく笑ってみせる。
「貴様、何者だ!?」
「怪しいやつ、取り押さえろ!!」
「ここまでどうして入って来た!?」
検非違使達は一斉に刀に手を掛けた。が、そこで動きが止まってしまう。
「な、何っ!? 刀が…」
「抜けないとは…」
「ど、どうしたというのだ?」
混乱する武士達の存在には目もくれず、かすかな笑みを浮かべたまま、
景時は別当の前に歩を進めた。
「梶原平三景時、妹を迎えに参上した」
「梶原…殿だと?」
「いつ西国から帰られたのだ?」
「しかし、なぜここに」
「警備の者はいったい何をしている!?」
検非違使庁の敷地内へは、簡単に出入りできるものではない。
ましてや詮議の場ともなれば、警護の武士の目に触れずに来ることは不可能なはず。
彼らは景時が陰陽師であることを知らないのだ。
だが、それを知っていたところで大差はなかったろう。 大勢の武士に対して景時はただ一人。
刀を抜かなくても、一斉に飛びかかれば取り押さえるのは容易なはずなのに、
誰一人として景時を止めることができずにいるのだ。
皆、笑みを浮かべた景時に気圧されて、
その場の成り行きを固唾を飲んで見守るだけだ。

別当の眼前に立つと、景時の笑みが拭うように消え去った。
剣も抜かず、真っ直ぐに立ったまま微動だにしない。
別当は、自分に向けてひたりと据えたままそらさぬ視線の冷たさに、全身が総毛立った。
剽軽な男…との評判ではなかったか。
取りなし上手で、人の和を乱さぬよう常に気を配っていると聞いている。
だが一方で、別の噂も耳にしていたことを思い出した。
敵に回して、これほどに怖ろしい男はいない…と。
威圧されて動くこともできない別当に向かい、景時はゆっくりと口を開いた。
「詮議は全て聞かせてもらった。
リズ先生は、源平の戦で背中を預け合い、一緒に戦った仲間だ。
武芸の誉れ高く、皆から慕われるリズ先生は、京に仇なすことなど絶対になさらない。
これは源氏の軍奉行としての言葉だが、
別当殿は、これだけでは足りないと言われるのか?」
別当は、精一杯の気力をかき集めて言う。
「し、しかし、そやつが鬼であることは紛れもない事実。
現に、京の各所に怨霊が出没しておるのだ。
それを軽々しく見過ごすことはできまい」
「先ほど朔が言ったように、先生を邸に呼んだのはオレだ。
だから、別当殿の尋問はオレが受ける。だけど…」
景時の声が、低くなった。
「朔にしたように、最初から話を聞く耳を持たないなら…」
心の底を見透かすような景時の目に、暗い光が閃く。
別当は恐怖にかられ、我知らず大声で叫んでいた。
「も…もうよいわ!! 
梶原殿、妹御と共に、早くここから立ち去ってくれ!!」

とたんに、景時は楽しげな声を上げた。
「うわあ〜、うれしいなあ♪」
そして、振り返って朔に笑いかける。
「よかったね〜朔」
その場の者達は一様に、口をぽかんと開けた。



◇ 「第四章 炎呪 第6話 馬上の男」 より

望美は男に抱えられて馬上にいる。この馬には見覚えがある。
野盗の元から逃げた馬だ。同じ馬具だから間違いない。
ということは、この男が例の、野盗達を操った者…!?
でも、それにしては先生のとった行動が解せない。
敵ならば、私をこの男に託したりしないはず。
先生は、この人が誰なのか分かっているようだったけれど。

男は顔も頭も、無造作に巻いた布で覆い隠している。
誰なんだろう。この馬の乗り方…知っている人のような気もするけれど…。
しかし、すぐ後ろまで追っ手が迫っている。
のんびり話をきくような状況ではない。

後ろから次々に矢が射かけられた。
ひゅん…と風を切る音と共に、耳の先を矢が掠めていく。
胸が締め付けられるように苦しい。
どうしたんだろう…。これは矢で射られる恐怖ではない。
別の…もっと不吉な何か…。まさか、先生が…!?

「このままでは逃げ切れないな…」
男が初めて言葉を発した。
聞き慣れたその声に、望美はやっと男の正体を知った。
「谷底まで駆け下りるぞ! しっかりつかまっていろ!」
「あなたは、く!?…く!!…くっむぐぅ」
いきなり口を塞がれる。
「馬鹿かお前は! 俺の名を口にするな!」
「そ、そうか。ごめんなさい」
「今の俺は謀反人なんだ。知らないわけでもないだろう」
「もうっ! それはそうだけど、馬鹿はないでしょ、馬鹿は」
「行くぞ!」
馬は方向を変え、一気に崖を駆け下った。
背後で追っ手達が驚愕する気配。
「何をする気だ!?」
「気でも狂ったか」
「自ら崖に飛び込むとは…」
「逃げられぬと観念したのではないか」
しかし、崖をのぞき込んだ彼らが見たのは、
下の道を駆け去っていく馬の姿だった。



◇ 「第六章 懐光 第4話 死闘」 より

周囲を取り囲んだ怨霊武者が、一斉にリズヴァーンに斬りかかった。
しかし、太刀を振り下ろす寸前、
「リズ先生!」
飛び込んできた敦盛に、怨霊武者は叩き伏せられた。
「敦盛!」
「お約束した通り、私が怨霊を食い止めます。先生はこの先へ…!」
「礼を言うぞ」
「いえ…私は…その…」
敦盛は一瞬言い淀み、次に笑顔を見せた。
「リズ先生、お誓いします。
どのような姿になっても、私は決して心を手放すことはいたしません」
「敦盛…」
リズヴァーンは、敦盛の目の中に強い決意の光を見た。
己が存在する痛みに耐え、血を分けた者達と戦いながら、
信じる道を貫いてきた者のみが持つことのできる、決意の光だ。
「私も約そう。必ず勝つと」
リズヴァーンはそう言い残すと、空洞の奥へと瞬間移動した。
「ここから先は…通さない!」
敦盛は首に掛けた鎖をつかみ、一気に引きちぎった。



 別窓で表示しています。ブラウザを閉じて終了して下さい。