潮騒の音に、目覚めた
月に照らされた世界は、水底のように青い


淡い・・・夢をみた
別れを告げたばかりのあの娘・・・白龍の神子


降しきる雨
・・・泣いている・・・お前

現し身はそこにありながら、
遠い時の彼方から俺を凝視する・・・
眼差し
白い頬を伝い、流れ落ちる涙

俺は・・・ここにいる

引き寄せて、仰向かせ、息のかかるほどに近づいても、
お前は悲しみをたたえた眼をしたまま・・・


神子殿も、たいそうな夢を・・・見せてくれたものだ


潮の香を含んだ微風が吹き抜けていく
青い月が海原にひと筋、光の道を描く


次の逢瀬は戦の中・・・
沈みゆく太陽を留めることができぬように、
我が一門の落日は近い

それも・・・いいだろう

月を花を恋の沙汰を、歌に詠み
かりそめの恋を文に託して
一夜の閨に甘やかな吐息を抱いても

・・・全て、遠い、うたかたの夢だ

夢はいつしか覚め、水泡は消えゆく


真なるものは

だけだ

死の影に縁取られたものだけが
鮮やかに、美しい

お前には・・・わからないのだろう
生の輝きで
死の影すら、かき消してしまう
熱い火花のような・・・お前

心の奥に
凍てつくものを
隠しながら・・・

俺には決して見せない本当のお前

お前の眼は
俺を希求しながら
拒絶する

どこまでも深く透き通っていながら
俺をはじき返す

じらしているわけでも・・・ない

お前はまだ
駆け引きなど、できはしない

あの、岬の丘で
驚き、戸惑い、怯えて、震えていた

「清らかな神子殿」のお前は
まだ・・・
男を知らぬのだから


だがお前は
もう俺を
感じたろう・・・?

ひとさしの舞・・・
刻が重なり合った

過去もなく、未来もなく、たゆとう
あの、刹那の刻は
どんな交わりよりも
熱く・・・深い

俺とお前が
再びあの刻にまみえるのなら
それは

戦の中、剣の交わり

お前はその白い手で
我が一門を滅びに導くのだろう

最期に・・・
お前と剣を交えることができたなら
・・・本当のお前を見ることができたなら

俺は
生きる・・・のだろう

血が・・・騒ぐ


月が青い・・・な
染み渡るほどに・・・
海の底もまた、このように
ゆらめく青に満ちているのだろうか






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