寿ぎの言葉



どうしたのかな、神子殿。
そんなにうれしそうな顔をして。

え?

そうだよ、よく知っていたね。

おたんじょうび…おめでとう?

ああ、君の世界では、寿ぎの日なのだね。
ありがとう、神子殿。

おや、花のかんばせが曇っているよ。
何か心配事かい?

はは……。
いや、笑ってしまって悪かったね。
そんな憂い顔は、君には似合わない。
確かに「誕生日」を祝ったことはないけれど、
私は本当に、うれしいのだから。

ああ、笑ってくれたね。

やはり君には、笑顔が一番似合うよ。

おやおや、今度はそんなに顔を赤くして…。
その真っ赤な頬に、触れてもいいかな?

ふふっ、意地悪を言っているわけではないのだよ。
私の神子殿は、本当に愛らしいのだからね。

さあ、もっとそばに来て、
あの寿ぎの言葉を、
もう一度囁いてはくれまいか。


ああ…、もう一年(ひととせ)が 経ったのだね……。

早いものだ。
去年の「誕生日」は、神泉苑での戦いの翌日…だった。

え?
おめでとうを言い忘れていたって?
はは……神子殿が詫びる必要はないよ。

あの時は、君も私も……そんな余裕などなかったのだから。

おやおや、神子殿も手厳しくなったものだね。
余裕のない私が、そんなに珍しいのかい?

では、正直に言おうか。

ひたすらに求める心……
何もかも忘れるほどの情熱など……
私には無縁のものだった。

いや、無縁のものと、思いたかっただけなのかもしれない。

龍神と共に空の彼方へと去っていく君を見た時、
初めて私は、心の底から望んだのだよ。

神子殿……君という、ただ一人の (ひと)を…。

声の限りに君を呼んだあの時、
きっと、私は生まれ変わったのだ。
本当の、私に……。


不思議なものだね、神子殿。

君からもらう、ささやかな寿ぎの言葉が、
こんなにも、心にしみ渡るとは…。

どんなに美しい花を愛でても、
空しいばかりだった私の心が、
今、あたたかく満たされている。

君のおかげだよ神子殿。
だからもう少しの間……、私の腕の中にいておくれ。

私の…神子殿……。






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友雅さん生誕祝いSSです。

友雅さんの一人称で書いてみましたが、
あかねちゃんとのやりとりを、
何となく想像して頂けるとうれしいです。

そして、がんばって少しだけ甘めにしたつもり。
甘さを感じてもらえたなら、超ラッキーです(冷汗)。

「あんそにい」っぽいセリフもちょっと混じっていますが、
そこは声ネタということで(笑)。


2008.8.5 拍手より移動