守りたいのに


この頼久・・・あなたを一生、お守りいたします。
あなたのおそばで、ずっと・・・。


とお誓いしたばかりなのに・・・・・・。
神子殿〜〜。





「まあ、神子様!!ずっと京にいて下さるのですか?!」
藤姫様の嬉しそうな声。
星の一族としての自覚と、生来の真面目な御性格ゆえか、普段は年の割に大人びた
立ち居振る舞いをする藤姫様が、まるではしゃぎ出さんばかりのお喜びようだ。

神泉苑での戦いに勝利した後、神子殿は京に残って下さることになった。
この頼久と共に・・・これからは、在ると・・・。

まずは戦いの顛末の報告を、心配して待つ藤姫様に伝えるため、八葉揃って土御門の館に戻った。
私はいつものように、前庭に控える。

「でね、藤姫・・・」
神子殿の声だ。
聞く者の心までも、柔らかい春のような光で包んでくれる声。
事の次第を話すその声が、少し恥ずかしげに聞こえるのは・・・私の自惚れだろうか。

「えええーっ?!よ、頼久と・・・ですか・・・?」
「藤姫・・・何もそこまで驚かなくても」
「す、すみません、神子様。前々からお二人の仲がよいのは存じておりましたが・・・」

藤姫様が驚かれるのも無理はない。
ちりちりと心に・・・痛みが走る。
神子殿は鬼に無理矢理この世界に連れてこられたお方。
元の世界に帰るため、今まで頑張ってこられたのだ。
それなのに・・・私と共にあるために、残ると・・・。

「この頼久を、神子殿の世界にお連れ下さい」
そんな私に、あなたは笑顔で仰った。
「頼久さんと、ずっと一緒にいたいんです。この京で・・・」

その時の、一点の曇りもない清らかな眼差しを、疑うことこそ罪なのでしょう。
あなたの痛々しくも優しい決意に、頼久、命をかけてお応え致します!



そして

「ななななななんと・・・??!!」

これほど驚いた父上、いや、棟梁の様子を見るのは初めてだった。
「棟梁・・・何もそこまで驚かなくても」
「頼久さん、それ、さっき私が藤姫に言ったのと同じ言葉ですよ」
「あ、そういえばどこかで聞いたような気がしていました」
「いや、お見苦しいところをお見せして申し訳ない、神子殿。
前々からお二人の仲がよいのは存じておりましたが・・・」
棟梁も、さっき藤姫様が言ったのと同じ事を言う。


「あらためて、よろしくお願いします」
神子殿が父上に向かい、手をついて深々と頭をお下げになった。
・・・・神子殿・・・もったいのうございます。
神子殿に従い頭を垂れながら、思う。

すると、父上が手招きした。
「げほげほ、ごほん・・・。頼久、こちらへ」
「はい」
「耳を貸せ」
「?はい」
「見直した」
「はぁ?」
「女性には興味がないのかと、これでも心配しておったのだ」
「はっ。ご心配をお掛けし、申し訳ありませんでした」
「あやまるな。少しは怒れ」
「今は、そんな気持ちにはなれません」
「幸せだからか?」
ぽっ・・・・。
「とにかく、これで我が源の血筋も安泰じゃ」
「ち、父上!」
「ここでは棟梁と呼べ。ともかく、早う可愛い孫の・・・」
「神子殿!こちらへ!」
「え?頼久さん、まだ棟梁さんのお話しが・・・」
「いいのです!神子殿はお気になさらず! いきなり何を言い出すかと思えば・・・
「????」




しばらく神子殿と二人きりに・・・・・・なりたかった。 でも・・・・・
それからすぐに、私を捜す声が・・・・・・


「若棟梁!!若棟梁はおいでですか?!」
「あ、頼久さん、呼ばれてますね」
「はい、ちょっと行って参ります。すみませんが神子殿、すぐに戻りますので、
それまでしばしお待ち下さい」
「私はいいですよ。藤姫のところに行ってますから、お仕事頑張って下さいね」


神子殿は、感じ取られていたのだろうか。
私がすぐには戻れないことを・・・。

「何の用だ」
「ああ、若棟梁、こちらに・・・。棟梁がお呼びです。急ぎの御用事とか」
「わかった」

急ぎの・・・・というのが少し心にひっかかった。
それでもまずは、先程の・・・清らかな神子殿に対するあまりにも無礼な話題のこと、
棟梁といえど、一言申し上げておかねば、と思っていた。
それが・・・・・・・


「頼久、早う支度せい」
「は?」
「若君殿が、岩清水八幡宮に参詣される。お前が警護に就け」
「・・・・・・棟梁が供につかれると・・・・、伺っておりましたが」
「帝からお召しがあり、左大臣殿が緊急に参内されることになったので、わしが供をせねばならん。
京に平安が訪れた祝いを、どのようになさるのか、ご相談されるらしい」
そこで棟梁は私に近寄り、小声で続けた。
「これも、神子殿のご活躍のおかげぞ。でかした、頼久」


若君はもう準備を整えられていて、私はそのまま、出立するしかなかった。
しばしの別れを惜しむ間もなく、きちんとご挨拶もできなかったというのに、
神子殿はにこにこと笑いながら見送ってくれた。
私だけに向けてくれたその笑顔を胸にしまい・・・・・・・




そして今も、しまったままで・・・・・・

あれから五日・・・・・こうして、まだ岩清水の八幡宮で、若君の警護をしている。
源氏の氏神である八幡様に、武士団の棟梁たる父の名代として丁重にお参りもした。
あとは若君がお帰りになる気持ちになって下されば・・・・・


神子殿・・・・あなたにお会いしたい・・・・・。


神子殿は今、何をしていらっしゃるのだろうか。
藤姫様と楽しいお話しに興じられ、あの小鳥のような声で笑っているのだろうか。
それとも、庭に出て、花を愛でられているのだろうか。

「神子殿・・・・・」


その時、視界の隅に動きを捕らえた。
木の間、生い茂る葉にまぎれ、身を隠して、何かを構えている者。
拝殿の階段を上がろうとしている若君に向けられているのは・・・。

考えるより先に、身体が動く。
矢が射られた。
若君の前に立ち塞がり、飛んできた矢を全て打ち払う。


「若君様っ!!ご無事で?」
「な、何事が起きたのじゃ?」
若君は呆然とされている。お怪我はないようだ。

「若棟梁!!」
「こちらはいい!!あの垣の向こうだ!追えっ!」
駆け寄る武士達に指示をする。
「神域を血で穢すな!生け捕りにしろ!」
「承知!!」



こうして、曲者は引っ捕らえることができた。
左大臣殿の権勢が強まるにつれ、それをよしとせず、敵にまわる者も多くなっている。
しかし、若君を狙った者の背後にいる者が探り当てられれば、
敵の一人は、確実に自滅することになるのだろう。
雲上の権力争いなど、一介の武士たる身には関わりのないことだが・・・。



「お見事でした、若棟梁!」
「若棟梁の腕には、前から感服しておりましたが・・・・」
「これほどにお強くなられていたとは!!」


武士団の者達が、口々に称えてくれる。
しかし、これは私の働きなどではない。
神子殿の・・・・おかげだ。

以前の私であったなら、おそらく・・・・
この身体を若君の楯として差し出し、命と引き替えに若君をお守りしただろう。

主のために・・・・命を散らすなら本望。・・・・・いや、そのようにして、散っていきたいと
心の奥底で、常に願っていた。
そうすることでしか、罪はあがなえないと・・・・。


けれど、今は・・・・
この命、私一人のものではない。
神子殿を守るため、神子殿の幸せのために、私はいる。
死中にあっても、あなたのために、頼久は必ず・・・・・・生きてみせます。




「見事な働きぶりであった、頼久!」
若君から直々のお言葉。
「もったいないお言葉、若君のご無事こそ、何よりでございます」
「というわけで頼久」
若君の言葉は続く。
「はっ」
「このまま熊野に詣でる」
「はっ?」
「父上から文が届いた。帝が御参詣するそうじゃ」
「はぁ?」
「父上と合流して、帝の供として熊野権現に参拝しようぞ」
はぁ
「これだけの働きをしてくれたのだ。武士団の者も少しのんびりするがよい」
はぁ
「熊野に飽くまで、ゆっくりしようぞ」
神子殿〜〜〜





終わり






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あとがき


ゲーム「舞一夜」では、一緒に現代に・・・・という感じだった頼久ですが、
ある場所での天地青龍声優さんのトークの中で、
「天真はどこに行ってもやっていけるだろうけど、頼久は現代では生きづらい」
という意見で、お二人が一致していました。
私もそれに熱く!同意します。

なので、私の中では「八葉抄」も「舞一夜」も京エンド推奨。
「舞一夜」では現代・京の選択はできなかったけれど・・・・・。

で、この話は特に2つのゲームの内のどちらか、というわけではなく、
何となく(オイ!)頼久京エンド後。
あかねちゃんと頼久の、ラブラブな時間はいつ来るのでしょうか(笑)。


この話、最初は、なかなか一緒に過ごせない頼久×あかねのすれ違いコメディを
目指していたのですが、書き終えてみたら、なぜかこのような形になってしまいました。

シリアスともコメディとも言い切れない、フツーっぽさが、なぜか物足りなく・・・・
おまけ話を下にこっそりリンクさせました。

ただ、この話については警告を出しておかなければいけません。
声ネタ、しかも、BL系ゲームネタです。
知らない方、好まない方には、本当に申し訳ありませんが、ちょっぴり「おまけ」ということで
どうかご容赦下さいませ。


ご了承頂けた方、こちらからどうぞ。



2006.10.12・筆