― 龍神海岸へようこそ ―



ここは龍神海岸の海の家、更衣室。

あかねの願いに龍神が再び応えてくれて、
今回はみんな揃って夏の海に来ている。

龍神パワーで、立派なロッカーに各自の水着まで用意されていたのだが
男子更衣室の天真と詩紋は、海に出る前にもう疲れ切っていた。
無理もない。
あとの六人には初めてのことばかりなので、
水着の着方から用途まで、説明と実演が必要だったからだ。

それでもやっと、全員の着替えが終わった。
しかし――

「神子殿をお待たせしては申し訳ない。行こう、天真」
「待て、頼久! 何で水着なのに剣をぶら下げてるんだ」
「神子殿をお守りするのが八葉の役目。
何より私は武士だ。武士の命を手放すつもりはない」

「あ、イノリくん、砂浜で下駄は……ちょっと……」
「え? でもお日様がぎっらぎら照ってんだぜ。
砂が鍛冶場みたいに熱いんじゃねえか?」

「友雅っ! なんで扇なんか持ってんだよ」
「扇は熱い陽射しを避けたり、神子殿に涼風を送ったり、
いろいろと役に立つものなのだよ。
それより、私の『水着』なるものが、みんなに比べて小さいように思うのだが」
「ボクも、それは…ちょっと気になってます……」

「す、すみません……。
私の『水着』で布をたくさん使いすぎたせいではないかと…」
永泉の水着だけが、ワンピース型だ。
「いや、お前とは関係ないから、そんなに落ち込むな、永泉。
ってか、海に数珠持って行く気かよ」

「問題ない。私も数珠(大)を首にかけている」
「問題あるだろ!」

「つまり、『水着』以外は不要と解釈してよいのですね。
けれど、眼鏡は着用していたいのですが。
これがないと、はっきり見えないものですから」

「鷹通も、なかなか大胆なことを言うね。
神子殿の『水着』姿をはっきりと見たい…とは」

「神子殿の!」
「そういえばあかねも…」
「えっ! オレみたいなカッコになってんのか!?」
「さすがにそれはないけど…」
「友雅殿……やはりそこですか……」
「ふふっ、みんな甘いのだよ。『水着』なるものを見てすぐに
神子殿のことに思いが及ばないとは」
「神子が……あのその……私たちは……どうすれば……」

「問題ない。
神子は、我々と一緒に海で遊びたいと言っていた」
泰明が「海はこちら」と書かれた扉に向かって、すたすたと歩き出す。

「そ…そうだ。神子殿の願いが一番」
「頼久、声が裏返っているのだが」
「友雅、俺の前に割り込むんじゃねえ」
「でっけえのが前を塞ぐなよ」

しかし、みんながむぎゅむぎゅと押し合いながらくぐった扉の向こうには、
もう一つ、部屋があった。

そこには大きな箱が置かれていて、添えられた札に
「不用になった宝玉は回収してやろうじゃなイカ」
と書いてある。

「……………………」×8

全員が無言で通り過ぎようとした時だ。

「無視するんじゃないよ!」
声と同時に、箱の中からビキニ姿のシリンが現れた。

「簡単には通さないからね、覚悟おし」
そう言いながら、シリンは蠱惑的な笑みを浮かべて
八葉の前に立ちふさがる。

「……………………」×8

再び全員が無言で通り過ぎようとした時だ。

「宝玉は置いていけ、と書いてあるのが読めぬようだな。
愚かな八葉には」
箱の中から声がして、今度は水着姿のアクラムが現れた。

続けて、さらに大小二人が出てくる。
「お館様、無防備なお姿では危険です」
「イクティダールは引っ込んでろよ!」

だが、彼らの言葉に耳を貸す八葉はいない。
あかねの方がず〜〜〜っと大事だ。

全員が「この先が海」と書かれた扉に殺到する。

バタン!!

開いた扉の向こうには、まぶしい太陽の照らす白い砂浜が広がっていた。
波の音、潮の匂い、青く輝く水平線。

「あ、みんなー、遅いよー」

あかねが汀で手を振っている。
遠くて、姿の詳細ははっきりしない。

「神子殿!」
「あかね!」
「神子!」
みんなは砂を蹴って一斉に駆けだした。

「神子の元には行かせぬ」
「お館様! 私が八葉を止めてみせます」
「お館様、せめて烏帽子を」
「イクティダール、お館様には黒麒麟の方が似合うに決まってる!」

しかし、彼らの目にあかねがしっかりと映る直前、
周囲はまぶしい光に満たされた。


     我が神子の八葉……と鬼
     特別に汝らに話しかける
     汝らに与えし神子との時間はここまで
     汝らは現の時間に戻る
     ただし神子ら女子組には
     夕暮れまで我の与えし時間が続く


あ…あんまりだ……!
ひどいじゃねえか、オーキdhks!!

だが、八葉の声が龍神に届くことはなかった。




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お館様ファッションQ: あなたはどっち派?
イクティ派: 仮面+水着+烏帽子
セフル派: 仮面+水着+黒麒麟


なお、冒頭で、龍神が再び願いを叶えた、とありますが、
一度目の願いとは 「対決!龍神温泉」のことです。

100000打アンケートへのお礼SSに少し書き加えました。
文章の手直しだけなので、大筋は変わっていません。

2012.11.14 筆  2013.02.02 拍手に再掲 2013.02.11 加筆修正して[小説]に移動