対決!龍神温泉 @1・後編

「1」オールキャラ

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「泰明殿、大丈夫ですか!?」
永泉が、うつぶせになって浮かんだ泰明を一生懸命引き起こした。
しかし泰明は眼を閉じたまま、ぴくりとも動かない。

「鬼に気づかれましたか!」
「まさか、まともに攻撃を食らったってのか?」
「しっかりしろよ、泰明」
「ケガはない? 泰明さん」

みんなの呼びかけに、泰明はうっすらと眼を開く。

「泰明殿の術を見破るとは、侮れませんね」
「泰明殿、何があったのだね」
「こうしている間にも神子は……。泰明殿〜〜!」

「神子…」
泰明の眼が大きく見開き、唇が震える。
「神…子…が」

「神子殿に何かあったのですか!」
「あかねは、無事なのか!!」

「神子…が……何も…纏っていなかった」

し〜
〜ん(全員無言)

永泉は、泰明を支えていた手を離した。
じゃぼん…ぶくぶくぶくぶく……


「とんだ回り道をしてしまいました。
こうなったら、神子殿に直接呼びかけましょう。
神子殿っ! 藤姫様!」
「最初からこうしてればよかったんじゃねえか。
あかねっ! 蘭〜〜〜〜〜!!」
「あかね!! 返事してくれよ!」
「みんな! 大丈夫?」
「鬼! よからぬことを企んでも無駄です!
八葉は全力で神子殿をお守りする!」

しかし、シリンから嘲るような答えが返ってきた。
「へ〜! こっちに来るっていうのかい、八葉!」
続いて
「えええ〜っ、みんなが来るの? ど、どうしよう」
「いやあああっ、お兄ちゃんのエッチ!」
きょとん…。「??? 神子様、助けが要らないのですか……?」

勝ち誇った声でシリンは言う。
「ほ〜っほっほっほっほ!
聞いての通りだよ。龍神の神子はお前達には来てほしくないとさ。
無理もないけどねえ」

「くそっ! 卑怯だぞ、シリン!」
「無垢な乙女の恥じらいを利用するとは、腹立たしいね」
「いやがってるのに、無理やり行くなんてできないよ。
でも、このままじゃあかねちゃんたちが…」

「私、シリンとよく話し合ってみるから!」
「来ないで! お兄ちゃん!」
「ええと…どうしましょう…」

「何だよ、オレ達は助けようとしてるんだぞ!」
「しかし神子殿に拒否されてしまったら、どうにも…」

その時、お湯の中から泰明がすっくと立ち上がった。
「みんな、退がっていろ。あの岩壁を粉砕する」

「立ち直りましたか、泰明殿」
「ほぼ問題ない。今は神子を助けることが急務だ」
「泰明、いいのかよ。もし壁を壊したら」
「全員が神子から口をきいてもらえなくなる。問題ない」
「どこが問題ないんだよ」

「その前に泰明殿、やはりこちらの姿は部分的に隠した方がよいと思うのだよ」
「念のため、友雅殿が仰っているのは、肝心な所は隠せということです」

「その程度のことは心得ている」
泰明は呪文を唱えながらみんなに掌を向けた。
と、空中に黒い線が現れ、みんなの顔に真一文字に貼り付く。

「目に黒線だけ入れてどうすんだよ、俺達犯罪者か」
「違うのか? だが時間がない。
行くぞ! はああああっ!!」

しかし、泰明の術が壁に当たった、と見えた瞬間、
凄まじい力が、その術を弾き飛ばした。

湯煙の奥から、冷ややかな声が届く。
「思う通りにはさせぬよ、八葉」

「アクラム!」

「お館様!?」

「よくやった、シリン。
邪魔な八葉を片付けて私が行くまで、龍神の神子を逃がすな」
「は…はい…いいえ、いえ、はい」
「その返事は…私の命令に従えぬというのか」
「そ、そんなこと…。もちろんシリンはお館様のため、
全力で龍神の神子を捕らえておきます」


急に落ち着かなくなったシリンに、あかねが言った。
「いいの、シリン?」
蘭は少々手厳しい。
「あなた、恥じらいというものはないの?
さっきから自慢げに見せびらかしていたけれど、
女同士だからだと思っていたわ」
「ええい、うるさいね!
あたしはそんな安い女じゃないよ」

「蘭、シリンも迷っているみたい。
責めたらかわいそうだよ」
「アクラムは特別ってことなのね」
「小娘が分かったような口をきくじゃないか。
……でも、その通りさ。
アクラム様になら見られてもいいけど
いつでもどこでもいいってわけじゃない」
「それは当然だよ」
「その気持ちは分かるわ」

「あの…神子様……話が見えないのですが……」



泰明達がアクラムと対峙している隙に、
湯煙に紛れ、永泉が密かに出口に向かっていた。

神子に…早くお着物をお渡ししなければ……。
藤姫と蘭殿にも……。

しかし突如、永泉の前に人影が現れた。
湯気を通しても、白い仮面ははっきりと分かる。
「ほう、法親王は気が利くようだな」
「アクラム…!」
「だが、八葉如きが何をしても無駄だと、思い知るがいい」
アクラムが腕を伸ばした。
「あああっ!」

しかしアクラムの術は、
その場にしゃがみこんだ永泉から大きく反れて、岩壁に当たった。

「永泉様!」
「永泉!」
「わ…私なら、大丈夫です」

「アクラム、腕がなまったな。
あらぬ方に術を飛ばすとは」
「………」
アクラムは沈黙したまま、再び術を撃った。
しかしこれもまた、あさっての方へと飛ぶ。

「ひっでえノーコンだな」
「見ろ、天真。アクラムの腕の動きがおかしい」
「分かりました! アクラムはこちらに背を向いているのです!」
「そしてなぜか、仮面だけはこちらに向けて着けているのだね」

「ぷっ…」
「かなり変な格好だね。ぷっ…」
「笑うな! 朱雀共!」

「笑うなと言われても…私には無理です。
友雅殿は大丈夫ですか、ぷっ…」
「いや、これをこらえるのは私でも難しいよ。
変わった趣味を持っているのだね、アクラムは……くすっ」

「くっ……っ! 趣味などではない!!
お前達のあれなあれなど見たら目が穢れるからだ」
「あの、私も、見て頂かなくて結構です」
「だが、背中は見せても、私は後ろ向きではない。
仮面がお前達を睥睨しているのだよ」

ちゅどーんちゅどーんちゅどーん!!

アクラムは闇雲に術を撃ち始めた。
「龍神もよい機会を与えてくれたものだ。
ここで果てるがいい、八葉」

ちゅどーんちゅどーんちゅどーん!!

アクラムの術は四方の岩壁に当たり、
砕けた小石が八葉に降りかかる。

「わっ!」
「これでは近づけません」
「一個所に固まっていたら、後ろ向きが相手とはいえ、
狙われやすいのではないかな」
「分散して近づきましょう」
「さすがに鬼の首領だぜ。術の威力がハンパねえ」
「当たらなければどうということはない・まるしーしゃあ」



「神子様…あちらから恐ろしい音が…」
「大丈夫だよ、藤姫」
「でも、こっちにも石がぱらぱら落ちてきているわ」
「お館様……あ!」
「どうしたの、シリン?」
「か…壁が…」
「あああっ!」


ちゅどーん!!

轟音と共に岩壁が崩れた。
アクラムの術でダメージを受けた所に、直撃が来たのだ。

大小の岩や石が飛び散り、あかねは藤姫をかばって
一緒にお湯の中にもぐった。

しばしの後、あかねがおそるおそる顔を上げると、
もうもうと立ち込める湯気と土煙の向こうに、九つの人影がある。

目に黒線だけの八葉と、後頭部に仮面をつけたアクラムだ。

土煙が晴れてきた。

「神子殿!」
「あかね!」
「神子!」
「龍神の神子」
影が一斉に走り来る。

「ま…まさか、みんな…」
「その、まさか…かも」
「あられもないお姿…なのでしょうか」
「お館様…」

しかし、あかねの目に彼らがしっかりと映る直前、
周囲はまぶしい光に満たされた。

     我が神子…
     汝に与えし『みんなで温泉に行きたい』時間はここまで
     汝は現の時間に戻る

「………龍神様、本当にありがとう」

あかねは心の底から感謝した。

終わり
     



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肌色ばかりの話を最後までお読み下さり、ありがとうございました!!

字間が空いている所は、反転してみると何かが見えてくるかもしれません。
ちょっとしたお遊びですが。

2011.07.29 筆