「うぇ〜〜ん、うっうっう」
「あれ、誰か泣いてますね。
俺、ちょっと見てきます」
「景時の声じゃないか?
大の大人が正月早々、何をしてるんだ。
俺も行くぞ」
「あら、九郎殿に譲殿、ごめんなさい。
兄上の泣き声が聞こえてしまったのね。
しっかりしてくれないと困るわ、兄上。
二人に心配をかけてしまったのよ」
「朔〜きれいだよ〜うっうぅううう。
母上にも見せたいよ〜うっうぅううう」
「困ったわね、ずっとこんな調子なの」
「おい景時、なぜ泣いている?」
「だって〜〜九郎〜〜朔が〜〜」
「朔殿なら、ここにいるじゃないか」
「九郎さん、見て分かりませんか。
景時さんが泣いているのは、
朔の晴れ着姿を見たからですよ」
「は?」
「その通りだよ〜譲くん。
朔の娘らしい姿を見られて、本当にうれしいんだ、オレ。
菫さんの着物を貸してくれたんだってね。
ありがとう。感謝するよ」
「いいえ、俺は箪笥から着物を出しただけで、
何もしてないんです。
その中から選んだのは先輩ですから。
朔とお揃いで晴れ着を着たいからって」
「ありがとう、譲殿。
こんなに華やかなものは少し恥ずかしいけれど、
何だか心が浮き立つものね」
「朔〜うれしいよ〜。
朔はまだ若いんだから、こうして着飾ってもいいんだよ〜」
「こちらにいる間だけよ、兄上。
私は出家しているんですから」
「それでもいいよ〜〜うぉぉぉ〜〜ん」
「号泣してるぞ、わけが分からん」
「でも、いいと思いませんか。
優しい兄貴って」
「何だよ、譲。
俺は優しい兄貴じゃないってのか?
お前におやつ分けてやったことだってあるだろう。
忘れたか?」
「兄さん、来てたのか」
「ああ、景時の派手な泣き声に、目が覚めちまった」
「可愛い妹なら、誰だって優しくもなると思いますが」
「弁慶さんも来たんですか」
「僕なら、あまり兄に優しくされたら、
かえって裏があるんじゃないかと疑いますね」
「弁慶、お前はどこまで疑り深いんだ」
「兄弟にも…いろいろあるのだと、思う。…だが」
「敦盛、いつの間に」
「す、すまない…泣き声が聞こえたので、
何事かと思い、来てしまった。
私にとって兄とは、誰よりも私を気遣ってくれる、優しく心強い存在だ。
だから…景時殿の気持ちは、痛いほど分かる。
私がうれしい時は、兄上も我が事のように…
喜んでくれたことを思い出す」
「ん? よく考えてみたら、ここは弟だらけだな。
兄は分が悪いぜ、景時」
「うぇぇ〜〜ん、そうだね、将臣くん。
……あれ? 九郎…どうしたの?」
「おい九郎、いきなり下向いちまって、どうした?
悪いもんでも食ったか?」
「あ…兄上…」
「かなり…気落ちしているようだ」
「しょんぼりしてしまいましたね」
「一方通行はつらいってとこだな」
「兄弟は、ほどほどに距離を取っておいた方がいいですよ、九郎さん」
「お前達に、何が分かる!!」
「おいおい、怒るなよ。これでも心配してるんだぜ」
「心配など無用だ!」
「九郎、少し落ち着いて下さい」
「俺は落ち着いてる!!」
「まあまあまあまあまあ、お正月なんだしさ、
ここはみんな仲よくしようよ」
「景時、元はと言えば、お前が泣くからだ!」
「え? オレ?」
「まあ、話をややこしくしたのは、景時のシスコンぶりだよな」
「しすこん?」
「兄さん、通じる言葉を使えよ」
「話を横道に逸らすな」
「いいえ、横道ではないと」
「まあまあまあまあまあ」
「お前が言うな」
「じゃあ私、望美と約束があるから、
お先に失礼するわ」
すたすたすたすたすた
ぱたん
「あれ? 朔は?
朔、どこ〜〜????」
2011年お正月企画
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2011.01.01 筆 02.05 小説部屋に移動