羽根つき

「迷宮」ノーマルED前提・オールキャラ



「あでやかな花が
お互いの顔に墨を塗るっていうのかい?」

「うん。それが昔からの決まりなんだ」
「緊張するわね。でも私、望美の顔にそんなことできないわ」
「えーっ、遠慮なんてしなくていいよ。
でも、よく考えてみたら、私も朔の顔にいたずら描きなんてできないなあ」

「じゃ、この墨はオレが預かっておくよ。
代わりに、姫君達は楽しく羽根つきというのをやればいいさ」

「そうだね、ヒノエくん」
「ありがとう、ヒノエ殿」
「いいねえ、その笑顔」

「先輩、ここにいたんですか」
「朔〜」
「おっ、羽根つきか」
「きれいな羽根ですね」
「手にしている板はなんだ」
「美しい絵が…描かれている……」

「ちぇ、無粋な野郎共がぞろぞろ来たね」
「両手に花を邪魔されて、不服そうですね、ヒノエ」
「まあ、面白くはないけどね、
野郎達の顔を見たら、いいことを考えついたよ。ほら…」

「墨汁と筆か…」

「姫君達から預かったんだけどね、
これでオレ達も勝負しない?」

「何を言っている、ヒノエ。
筆を使って何の勝負をするんだ?」
「俺達も羽根つきってか? ぱっとしねえな」

「いや、羽子板は姫君達の分しかないんでね。
こっちで、どう?」

「バドミントンか」
「ばどみ…?」
「あ、オレ、知ってる。
楽しくてさ、つい夢中になっちゃうんだよ。
羽根を落とさないように、打ち合うんだよね」

「ああ、あちらで望美さん達がやっているはねつき、というのも
同じ決まりのようですね。
羽根が地面に落ちないように、望美さんが駆け回っています」

「着物であれだけダッシュできるなんて、すげえな。
で、ヒノエの手にある墨汁は、羽根を落としたヤツの顔に
べったり塗られるってことだな」
「ご明察」

「俺は乗り気になれないな。
バドミントンで顔に墨塗り合って、どこが面白いんだ」
「へえ〜、そんなこと言っていいのかい、譲。
さっき話をきいたんだけどね、
この後、姫君達は出かけるそうなんだ。
どう? 美しい花二輪に同行する権利を賭けて…っていうのは」

「なるほど、ヒノエが張り切っている理由が分かりました。
いいですね、僕はその勝負、受けて立ちますよ」

「オレも〜♪
ばどみんとんがまたできるなんて、嬉しいなあ。
その上、望美ちゃんと朔と一緒に出かけられるなんて、
オレ、がんばっちゃうよ〜」

「買い物の荷物持ちになるのがオチだろうが、
ミントンなんて久しぶりだ。面白そうじゃねえか。
いいぜ、その勝負乗った」

「将臣が本気で来るなら、負けられん」

「どうする? 譲と敦盛はこの勝負、戦わずして下りるのかい?」

「武門の家に生まれた者として、
戦いを…挑まれたなら、逃げはしない」

「そこまで言われたら、俺も引き下がれないな。
バドミントンなら、小さい頃からやってきてるんだ」

「確かに一見、譲と将臣が有利に思える。
だがここにいるのは、百戦錬磨の強者ばかり。
甘く見ない方がいい」

「先生! もしや先生もこの勝負に参加されるのですか」

「うむ。
八葉たるもの、いつ如何なる時でも、神子を守らねばならぬ」

「私も神子と一緒に行きたい」

「白龍、お前、この勝負のやり方とか分かってるのか?」
「うん。羽根の飛翔を助ければいいんだね」

「だ、だいたい合ってるような気がする」
「だが白龍、ふわふわ浮くのは、無しだ」
「そ、そうなの?」
「地面にしっかり足をつけてろよ」
「うん、分かった」

「リズ先生の瞬間移動も禁止ってことでいい?」
「無論」
「敦盛の馬鹿力も反則だ」
「秘めた力…と言ってほしい」

「ルールは簡単だ。向かい合って羽根を打ち合うだけだからな」
「最後に残った者が、勝者となるのだな」
「燃えてきたぜ。受ける模様、描いてやるよ」
「兄さん、大人気ないんだよ」
「ふふっ、いいですね。
童心に返って、楽しみましょう」
「お前の童心は当てにならん」
「さあ、始めるよ〜」



ブンッ!
ブワッ!
ビュッ!
すこ…

べたべたべた

ポ〜〜ン
カコン
ぽと

べちょべちょ











冬の寒さを吹き飛ばす熱い戦いは、
予想通り、有川兄弟が勝ち残った。
そしてもう一人、白龍が……。

勝負は、有川兄弟対白龍の形になっている。
息の合った兄弟コンビに、白龍は絶対に不利と思われたが…。

「くそっ! 白龍が…こんなに…しぶといとは…思わなかったぜ」
「息が…あがりそうだ…」
「もう…上がってるじゃ…ねえか、譲」
「兄さん…こそ」
「白龍のヤツ…、涼しい顔…してるな。
走り回ってるのは…俺達だけ…かよ」
「そういえば…白龍は、最初に立った場所から…
ずっと動いていないんじゃ…」

「うん、地面に足をつけていなければならないから。
約束は守っているよ」

白龍の周りには、支えの足を中心に、足跡で円が描かれている。

「は…白龍ゾーンかよ」
「世界観…壊す気か…」

「へえ〜、やるじゃん、白龍」
「見事な…足さばきだ」
「さすが、神子を選んだ神だ」

そして、最強の白龍の前に、有川兄弟も敗れ去り、
顔に●△×のつかない者は、白龍一人になった。


燃え尽きて、有川家の庭にがっくりと座り込んだ男達の耳に、
玄関前の白龍と望美、朔の声が聞こえてくる。

「神子〜、私も一緒に行っていい?」
「もちろんだよ、白龍」
「迷子になってはだめよ、ちゃんとついてきてね」
「うん、気をつけるよ」
「どこに行こうか、朔」
「私、ゆっくり鶴岡八幡宮にお参りしたいわ。
いつも迷宮の扉にばかり行っていたから、
八幡様に申し訳なくて」
「そうだね、じゃ、行こう」
「ええ」
「うん。うれしいよ、神子。
私も八幡神に挨拶できる」

めでたしめでたし……?




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2011.01.01 筆 02.05 小説部屋に移動