はじめてのおさいほう

泰明×あかね 京ED後
聖夜の邂逅の 翌年背景です



雪の降りしきる冬の深夜―――
あかねは寝所ですやすやと眠り
泰明は一人、自分の部屋に籠もっていた。

明日――「くりすます」に、あかねに「ぷれぜんと」を渡すため、
泰明は困難な作業に取り組んでいる。

陰陽寮には明日の分の欠勤届けを提出済みだ。
理由も「頭痛歯痛腹痛腰痛」と明記したので問題ない。

泰明は小さく首を傾げ、作業の手順を考えている。
終わりまでの工程が、なかなか見えてこないのだ。

泰明にとって、陰陽術に関わることはもちろん、
知識を蓄え、用いることは、さほど難しいものではない。
細かい手作業も器用にこなすことができる。

しかし、これから泰明がしようとしていることは、
経験したことも耳にしたこともない、未知の領域にあるものだ。

赤い布と白い布が、泰明の前に広げられている。

泰明は眼を閉じ、三太の装束を思い浮かべた。
あの形を作るには、この布をどのような形に切らねばならないか……。

泰明は思い描いた形を眼の前の布に投影し、
指の先に気を集めてその輪郭をなぞり、布を裁った。
次に針と糸を取り出す。

つい先日、三太を迎えるため、あかねと一緒にくつ下というものを作ったが、
三太の装束は、それよりもずっと複雑な手順でできている。

しかし……何としても今夜の内に完成させなければならない。

あかねのために。
あかねの笑顔のために。

ちくちくちく……ぷつっ…あっ指を刺してしまった……
ちくちくちく……ぷつっ…あっアタマを刺して……
ちくちくちく……ぷつっ…あっ足の裏を……以下略




そして翌日―――

「めりいくりすますだ、神子」

サンタクロースの服を着た泰明が、
あかねにプレゼントの箱を二つ、差し出した。

「ややややや泰明さんっ!?
どどどどどうしたんですか!?」

「ああ、ぷれぜんとが二つあるので驚いたか。
こちらは私からのぷれぜんとで、
こっちは三太から預かったものだ」

「そっちじゃなくて、泰明さん……なぜサンタクロースの服を」
あかねは泰明の服をまじまじと見ている。

泰明はしょんぼりとうなだれた。
「………神子は、この装束が気に入らないのか。
私が三太に似ていないから、
くりすますの気持ちに水を差してしまったのなら、
神子にはすまないことをした。
白い髭やふくらんだ腹も模した方がよかったのだろうか」

「違います!」
あかねはふるふると頭を振って、泰明を見上げた。
不揃いな縫い目、泰明には大きすぎるサイズ。
サンタクロースの服をそのまま写して作ったのは明らかだ。

「この服、泰明さんの手縫いなんですね。
私のために、作ってくれたんですね」

泰明はこくんと頷いた。
「神子はくりすますの三太が好きなのだろう?
だから、この装束を作った。
術を使えば三太に扮するのは容易い。
だが、神子にぷれぜんとを渡すのは、
陰陽の術で形作った私では嫌だと……思ったのだ」

「泰明さん………」
大きな瞳が、涙で潤む。
「最高のクリスマスプレゼントを、ありがとう!!」
あかねは、泰明にぎゅっと抱きついた。

「神子……」
泰明はぽっと頬を赤らめ、戸惑いながら言う。
「お前はまだ、ぷれぜんとを開けていない。
なのに最高だとなぜ分かる?
どちらが最高なのだ、三太のか、私のか……」

あかねは、涙の滲んだ声で愛らしく笑った。
「最高なのは泰明さんですよ!
サンタになった泰明さんが、私には最高のプレゼントです!」

泰明はあかねの顔を上向かせ、
おずおずと小さな笑みを浮かべた。

「ならば、三太の装束で、来年のくりすますにも、
次の年にも、その次も……ずっと神子にぷれぜんとを渡していいか。
そうしたら、神子は喜んでくれるだろうか………」

「はい」
あかねはにっこり笑って眼を閉じた。
「約束……しましょう、泰明さん」

「約束する、神子」

泰明は、あかねの唇にそっと約束の印を落とした。






[小説・泰明へ] [小説トップへ]




クリスマス話でした。
無自覚天然最強に可愛い泰明さんを書きたかったのですが、
とにかく楽しんで頂ければ最高です。

なお作中の「三太」云々は、冒頭にもある通り、
拙作聖夜の邂逅に 出てきたサンタクロースのことです。

また、泰明さんが、三太からのプレゼントを持っていたことに
????となった方も多いと思います。
その辺の経緯は、もう一つのクリスマスSSで書く予定です。
というか、必死こいて書いてます。

↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓

書き上がりました!!
「聖夜の鈴の音」 です。
何だかこっちのタイトル↑の方が、クリスマスっぽいぞ……。

三太が中心の話、かつ「星降る夜に」等、
拙サイトの連作に関連した話ですので、苦手な方はご注意下さい。
上記の理由から、当分の間は、この後書きからのみリンクいたします。

それにしても、イブの晩にやっとアップにこぎ着けたって……
ぎりぎりなのか遅刻なのか微妙です(汗)




13.12.24 筆