幸せの証 1

景時×望美 無印ED後



「ふんふんふ〜ん♪」
「ふんふんふ〜ん♪」
「今日もいいお天気だね〜」
「洗濯日和ですね。風が気持ちいいです」
「望美ちゃん、手際がよくなったね」
「景時さんの指導の賜ですよ」
「いや、望美ちゃんの筋がいいんだよ〜」
「青い空に翻る洗濯物って、いいですね」
「うん。そうだね。
そして…オレの隣には君がいる…」
「景時さん…」

「こうして望美ちゃんと一緒に洗濯物が干せるなんて、
オレ、すっごく幸せだよ」
景時は高く澄んだ空を見上げた。

ああ、本当に幸せだ。
こんなに心安らかな日々が訪れるなんて、
想像も出来なかった…。

――しかし、その幸せは、僅か数秒後に崩れた。

朔が駆け込んできて、悲鳴にも似た声で言ったのだ。
「兄上!! 検非違使が!!」
「ん? 何かオレに用?」
「兄上を捕縛すると…」
「え? オレを?」
「何かの間違いじゃないんですか?」

そこへずかずかと、検非違使庁の役人に率いられた武士の一団が入ってきた。
「間違いなどではない」
「証人はたくさんいるのだ」

「えええ〜〜っ!?」
「どういうこと?」
「しらを切るとは潔くありませんぞ」
「おとなしくお縄に」

「それじゃわけが分かりません!!
ちゃんと説明して下さいっ!!!!」

望美の剣幕に、検非違使達と景時はひっと首をすくめる。

「わ…分かりました」
「分かればいいんです」
ぎんぎんと睨む望美の視線に縮こまりながら、
彼らが説明したこととは……

近頃、怪しげな武器を手にした強盗が、京の街を騒がしている。
長身美形の男で、腹の出た装束、というのが特徴だ。
その男は筒のような形の武器を構えて人々を脅しては
身ぐるみ剥いで脱兎のごとく去っていくという。

「筒のような武器…ですって?」
「そうだ。剣でも吹き矢でもない珍しい物だ。
誰も最初は武器とは思わなかったそうだが、
筒先から煙が出て、筒を向けられている者が倒れたなら
たとえ童でも、それが危ない物であることは分かる」
「梶原殿は、その武器に心当たりがあるのでは?」
「人相風体もよく似ているが?」
「えっ! えっ! ええ〜〜〜〜!?」

しかし、景時と検非違使の間に仁王立ちした望美は、
きっぱりと宣言した。
「それは景時さんのニセ者です」
「そ、そうだよ。きっとそうだ」
「何を証拠にそのようなことを言われる」
「京邸の経済状況は上向いていませんから」
「それは確かだわ」
「夫が臨時収入を隠すのは、よくあることではないのか」
「夫が臨時収入を隠すのは、よくないことです。
だから、そんなことはさせません」
「確かに。
いや、そうではなくて、証人をこれへ」
「証人が…いるというの?」

武士達の後ろから、街人が出てきた。
その男は、景時を一目見るなりがたがたと震え出す。
「ひぃぃ! お助けを」
「何で怖がるの? オレ、何もしてないよ」
「こっこの人です!! 間違いありません!!!」
「ええええ〜〜っ!!」
「そ、そんな!」
「兄上…」

「というわけで、梶原殿には我らと同行して頂く」
「梶原家の御為にも、ご当主として抵抗はなさらぬように」

「待って下さい!
景時さんのアリバイはどうなんですか?」
「腹ばい?」
「蟻は這うと言うより、ちょこまかと走り回るものではないだろうか」
「いや、夜這いのことであろう。
梶原殿、この点については如何に?」
「とととととんでもない!! 
オレ、望美ちゃん一筋だから。
他所に夜這いなんて考えられないよ〜」

「アリバイっていうのは不在証明のことです。
事件当時、景時さんが別の場所にいたことが証明されれば、
当然、景時さんは無罪ですよね」
そう言うと望美は、証人の街人に向き直った。
「あなたが景時さんのニセ者に会ったのは、いつ、どこでですか?」

「は、はあ。あれは……」
街人の答えに、景時の顔が心なしか青ざめる。

「その日は確か、景時さんは堀川の九郎さんの所で残業だったはずです。
そうだったよね、朔」
「ええ、その通りよ」
「あ…ああああ、そうだっけ…」

三人の会話を聞いていた検非違使の目が、きらりと光った。
「墓穴を掘りましたな、梶原殿。
我々はここに来る前に、六条堀川に立ち寄ってきたのだ」
「えええぇぇ……」
「その日は残業どころか早退したと聞きましたぞ。
堀川の家人の誰に聞いても、同じ答えが返ってきた…ということは」

「で…でも、オレじゃないよ」
「景時さん、どこに行っていたんですか」
「兄上、私達に嘘をついていたの?」
「あ…え、ええとね、違うんだ。…あの…その…」

「これ以上の問答は無用」
「梶原殿、参りましょう」
「望美ちゃん〜〜朔〜〜〜」
「待って下さい! もう少し話を…」

しかし、なおも立ちはだかろうとする望美に、
厳しくも無情な言葉が投げつけられた。
「源氏の御家人といえど、罪状明らかとなれば見逃すことはできぬ」
「無実であるなら、うろたえる必要などないはず」
「梶原殿も、詮議の場で堂々と夜這いもとい蟻なにがしを主張するがよかろう」

ここに至って、景時は腹を決めた。
「そうだね。これは濡れ衣だと、ちゃんと説明させてもらうよ」
そして、なおも止めようとする望美と朔に笑顔を向ける。
「オレ、本当にそんなことしてないから、
ちゃんと誤解を解いて帰ってくるよ」
しかし、心なしか笑顔に力がないようだ。

景時は、そのまま検非違使一行に連行されていってしまった。

「景時さん…」
「兄上…」

望美と朔は呆然として立ちつくし、後ろ姿を見送るしかない。
だが、二人の思いは同じだった。
このままおとなしく引き下がるつもりはない。

「朔、これから九郎さんの所に行ってみる。
ニセ者を捕まえる手伝いをお願いしようと思うんだ」
「そうね、それがいいわ、望美。
私は梶原党のみんなと、これからどうするか話し合うわ」
「頼むね、朔」
「しっかりね、望美」



――でも…景時さんは、何を隠しているんだろう。
望美には、その一点だけが気がかりだ。
もちろん景時の無実は信じている。
だが……

走る磨墨の鞍上で、望美はぶんぶんと頭を振った。
――今は、景時さんを助けるのが先だ

「磨墨っ! 全速力!!」
「ひひひ〜〜ん!!」
主の危機を察してか、望美の気持ちを察してか、
六条堀川に向かい、磨墨は一心に駆けていく。


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景時×望美では初めての続き物です。
相変わらずの軽〜いギャグ。
検非違使さんの語彙が現代風だったり、
その他いろいろ自由に書き散らしていきます。

次回は源氏の総大将と軍師が登場する…
予定です。
がんばります。


2011.03.28 筆