幸せの証 2

景時×望美 無印ED後



六条堀川の源氏館。
主の九郎と、ちょうど運よく…あるいは折悪しく居合わせた弁慶を前に、
望美は京邸での経緯を一気に話した。

「…というわけなんです。
力を貸して、九郎さん! 弁慶さん!」

「まずは落ち着け」
「落ち着けないから、協力をお願いに来たんです。
「検非違使には、俺も会った。
だが景時が潔白ならば、いずれ嫌疑は晴れるだろう。
そんなに騒ぐことはない」

「検非違使さんに会ったのなら、
どうして景時さんが無実だってことを
もっと強調してくれなかったんですか!
そもそも景時さんが捕まったのは、ここの人達の証言のせいなんですよ」
「それは聞き捨てならん。
この館の者は偽りなど言っていない」

「だったら、事件当時、景時さんはどこにいたんですか」
「そんなことが俺に分かるか。少しは頭を冷やせ」

「そんな言い方ってない!!

景時さんが捕まったままでいいんですか」

「誰もいいとは言っていないだろう」


「九郎、そんなにけんか腰では望美さんが焦るばかりですよ」
やんわりと弁慶が止めに入った。
「望美さん、九郎に悪気はないんです。
僕たちは君の頼みを無碍に断ったりしませんから、
もう一度落ち着いて、今の状況をよく考えてみませんか」

「そ…そうですね。ごめんなさい、九郎さん」
「気にするな。俺も言い過ぎた」


そこで、もう一度よく考えてみた。






「弁慶さん、それって、ただ待つだけ…ということですか?」
「ええ、そうですよ」
「私たちは何もしないんですか?」
「ニセ者がまた現れるのを待つだけでいいんですよ。
今、本物の景時は捕らえられています。
そこに再び景時の姿をした物盗りが現れたなら
どういうことになると思いますか?」

「そうか! 犯人がニセ景時さんだっていう証拠になりますね!」
「そうです。向こうの方から証拠を作ってくれるんです」
「俺はいい策だと思う。
だが、一つ問題があるぞ。
相手が、景時が捕らえられたことを知っていたらどうする」
「そうですね。そうそう都合よく、相手が動いてくれるとは限りません。
ですが、待ってみる価値はあると思いますよ」

「じゃあ、行ってきます!」
望美は勢いよく立ち上がった。

「ん? どこに行くんだ?」
「望美さん、まさか君は…」
望美はにっこり笑った。
「もちろん、犯人をおびき出すんです。
九郎さん、館にある金目の物を貸して下さい」



「……というわけで、オレを捕らえたことは
しばらくの間公表しない方がいいと思うんだ」

検非違使庁では、取り調べの役人を前に、
景時もまた、自分の潔白を証明するべく、
望美達と同じ策を提案していた。

「ふむ。梶原殿の言うことにも一理ある」
「梶原殿が捕らえられている間に物盗りが現れたなら、
真犯人は別にいることになるな」

「そういうことだよ。
オレは逃げも隠れもできないんだから、
京の街で強盗をはたらくなんてできないでしょ?」
「その間、怪しい陰陽術など使わぬよう見張らせて頂くが、
よろしいでしょうな」
「もちろん。ず〜っと見張っていて構わないよ」

「だが数日待っても、件の物盗りが現れなかった場合は
潔く罪を認めるのであろうな」
「う〜ん、それはできないけどさ、
とりあえず、何日か待ってみてくれないかな」

「しかしその間、物盗りも捕らえられないのかと、
検非違使庁は白い目で見られるのだぞ」
「間違って無実の人を捕まえたっていうのも、知られたくないでしょ」
「む…むう。御家人を誤認逮捕か…」
「まずいかも…」
「大丈夫。オレ、黙ってるからさ♪」
「かたじけない、梶原殿」
「いやいや、気にしないで〜」

愛想よく笑いながらも、ちりちりと胃が痛い。

事件当時に何をしていたのかは、絶対に答えられないのだ。
だから、それを答えることなく無実を証明しなければならない。

だがこの後数日以内にニセ者が現れるかどうか、
景時に確信はない。
その間に、何とか手がかりを掴めるといいのだが、
果たして間に合うだろうか…。

――がんばってよ〜、式神!

景時は、隙を見て逃がしたサンショウウオの式神に呼びかけた。

――はい! ぼくがんばります!
ずっとぜんそくりょくではしってます!
ぺたぺたっ…ぺたぺたっ……ぺ…た…

サンショウウオの視界に映っているのは、
間違いなく検非違使庁の中庭だ。

――あれ? まよったみたいです。
どっちにいけばいいですか? ごしゅじんさま。

――あっち。
――はい!

「怪しい陰陽術」なら、とっくに使っているのだが、
まだまだ道は遠いようだ。

――がんばってよ〜〜。
――は〜〜い!!



「いかにもお金持ちっぽい感じでいきましょう。
物盗りが襲いたくてたまらなくなるようにするんです」

「全く分からん」
「九郎、こうして望美さんについてきたんですから
僕たちもできるだけ協力しましょう。
で、望美さん、僕たちにも分かるように、君の策を説明して下さい」

「ええと、私が大富豪のお嬢様で、
九郎さんと弁慶さんは、ちょっと弱そうな護衛です。
で、ニセ景時さんが油断して襲ってきたところを
ガツン!!!です」
「この三人の中に、弱いやつなどいないだろう」
「弱い振りをすればいいんですね」
「そうです」

「だったらお前も気をつけろ。
今の状態は、殺気が漲っているなんてものではないぞ。
堀川館の武士が何人腰を抜かしたと思ってるんだ」
「え? 気づきませんでしたですわ。
何しろ私、か よ わ い ですのですわよから」
「やっやめろ!」
「やめておきませんか、望美さん。
無理な芝居をすると、かえって敵に気取られます」

「分かりました。
じゃあ、六条堀川から借りてきたこの壺を
見せびらかしながら歩くっていうのはどうですか?」
「ううう…弁慶、こいつを何とか丸め込めないか」
「今の望美さんには何を言ってもむだだと思いますよ。
とにかく、ニセ景時の出没した場所に足を運んでみましょう」



こうして、ニセ景時をあぶり出す作戦が始まった。

強盗事件のあった場所を京の地図に描いていくと、
四条から十条の間に限られていることが見て取れた。
その中でも人通りの少ない寂れた場所に、
陽も傾いた夕刻頃から、ニセ景時は好んで出没するらしい。

雲をつかむような話ではある。
それでも、弱そうな振りをした三人は
壺を見せびらかしながら根気よく歩き続けた。

その間、別の物盗りが次々とエサに飛びついてはボコボコにされたが、
肝心のニセ景時は現れない。


そして三日目。
用事があってすぐには出られないという九郎と、
急患で呼ばれた弁慶を置いて、
望美は一人でニセ景時退治に出かけた。

雨の降り出しそうな曇天の下、
西の京の街外れにさしかかった所で、
ふいに望美の前に現れたのは、長身美形の男。

容貌も装束も梶原景時そのものだ。
男はゆっくりした動きで陰陽銃を取り出すと、
その銃口を望美に向けた。


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1ヶ月ぶりに、やっと続きが書けました。

九郎さんと弁慶さんを巻き込んで、
望美ちゃんの勢いは留まるところを知りません。
行く手に何かが立ち塞がるなら、薙ぎ倒して行け! という感じで(笑)。
こういう望美ちゃんが、私は好きです♪
いっしょうけんめいなサンショウウオくんも、好きです。

2011.04.28 筆