そんなこと、わかってるよ!
あの世界は、私たちの世界と似ているけど全然違うんだ・・・って。
だから、銀が、あんな女タラシの重衡なんかとは別人なんだ・・・って。
この時点で、恒平先生の熱意は完全に逆効果になっている。
望美にとって、重衡のイメージは最悪だ。
銀と重なるだけに、よけいに始末が悪い。
でも、銀に聞いてみるんだ!
あんなにあっちこっち声かけまくってたのかどうか。
ウソでもいいから、否定して。
ううん、銀は私に嘘なんかつかない。
じゃ、もしも本当だったら・・・
ババン!!!!
望美は銀の働いているアクセサリーショップの前に仁王立ちになっている。
いざ!!
「さあ、入るわよ!」
どどどどどどどどど
「きゃっ、何?!」
望美を押しのけて、女子高生の大群が店に入っていった。
「銀さん、このリング、私に似合うかしら?」
「このチョーカー下さい。銀さんに包んでほしいな」
「ねえ銀さん、どれにしたらいいか、見立ててくれない?」
銀を取り囲んで、すごい勢いで買いあさっている。
「字面では同じだけど、銀さんて、魂がついてる方より上品よね」
「私、ヅラじゃない、桂がスキ♪」
関係ない話も聞こえてくる。
銀はにこやかに応対しながら、てきぱきと客をさばいている。
下校途中の女子高生が次々と入ってくる。
ボーゼンと見守るうち、会社帰りの女性達も混ざり始めた。
ち、近づけない・・・
あちらの世界でも、宮中に参内していた頃はこうだったのか?
女性達に取り囲まれて、親しくおつきあいをして・・・・
「銀さ〜ん」
「こっちよぉ、銀さん」
黄色い声が銀を呼ぶ。
もういいっ!!!
望美はぷいっと後ろを向くと、そのまま店を飛び出した。
「神子様・・・・」
悲しげな銀の視線にも気付かずに。
♪〜♪〜・・・♪
その夜、銀から電話がかかってきたが、望美は早々とふて寝していて気付かなかった。
続けてメールも届いた。
「神子様、今日は店まで来て頂いたのに、お話もできず申し訳ありませんでした。
何か私に御用だったのでしょうか? あなたの銀より」
「こういう文をあっちゃこっちゃに送りつけてたの?!」
翌朝、メールを読んだ望美の頭に浮かんだのが、このことだった。
こんな気持ちで返信なんかできない。
そのまま登校する。
「神子様・・・」
いつもなら打てば響くように明るく楽しい返信をしてくる望美が、いったいどうしたのだろう。
何か、知らないうちに怒らせるようなことをしてしまったのだろうか。
銀は戸惑い、愁いに沈む。
恒平好子・教師歴8年・誰か止めろよの罪は大きい。