背水

(弁慶×望美〜バレンタイン)



自宅の玄関を入るなり、弁慶はがくっと膝をついた。

僕をこんなにまでするなんて、
望美さん…
君は…。

これでも、自信があったんだけど
どうやら、僕の自惚れだったようですね。

でも、君の前で音を上げるわけにはいかないから…。

かろうじて部屋に上がると、
そのまま崩れるように横たわる。

壁に掛けた暦に目をやると、
三日後にも逢瀬の約束の印がついている。


次も…こうなりそうですね。
恋人同士の特別な日のようですから。
でも…このままじゃ僕の身がもちそうにないな。

すぐに20ほど、回避策が浮かぶ。
しかし、全て却下。

男の僕が拒むわけにはいきません。
こうなったら…

弁慶はうっすらと笑みを浮かべた。

望美さんにこの家まで来てもらって、
僕が一から教えることにしましょう。
ゆっくりと…時間をかけて。

君にとっても、きっと楽しい思い出になる。



三日後……。


「楽しかったで〜す。弁慶さん、また教えて下さいね」
「嬉しいな…君に…喜んで…もらえるなんて…」
望美はにこにこしながら帰っていった。


玄関の戸が閉まると同時に、
「うっ…」
弁慶は倒れた。

「足腰立たないとはこういうことを言うんですね。
望美さん…僕は君を甘く見すぎていたようです」

よろけながら薬棚まで行き、丸薬を取り出して飲み下す。


部屋の奥の扉を開けると、そこは嵐が吹き過ぎたような惨状。



望美は頬を染めて、小さな声で言ったのだった。
「あの…こんなにしちゃって恥ずかしいです」
「ふふっ…誰でも最初はこんなものです。
僕が片付けておきますから、このままでいいんですよ」

ふらつく足を踏みしめ、後始末を始める。

教え方がまずかったのかもしれない。
でも……

かなり初歩的な、「生ちょこれえと」のはずだったのですが…。

なぜ、あんな破壊力が生まれるのか。


「また教えて下さいね」
望美の笑顔を思い出す。

君は…本当にいけない人ですね。
こんなになっても僕は、また君と…と思ってしまう。


弁慶は片付けを終えると、
最後に愛用のレシピ本、
「二人で作るお菓子・流山詩紋著」を、
棚にしまった。





☆・・・バレンタイン集・・・☆

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弁慶さん、まぎらわしい独白はやめて下さい(笑)。

蛇足ですが、冒頭の逢瀬は弁慶さんのお誕生日デート。
望美ちゃんが何やら手料理を振る舞ったもようです。

けれど、先読みも少々黒めな策略もばっちりなはずの弁慶さんが、
望美ちゃんの爆裂クッキングの前には、あえなく敗退。

でもきっと、これからも中長期的戦略の下に、
望美ちゃんの腕を上げるべく、
ねばり強い努力を続けるのでしょうね。
軍師様ですから。

最後のオチは……(笑)。
「遙か」1からリアルタイムで時間が経過したら、
もう詩紋くんも立派な大人のはずですから。


2007.4.3