告白

(九郎×望美〜バレンタイン)



「九郎・・・、どうした!何かあったのか?」

有川家の玄関先に現れた九郎を一目見るなり、将臣は驚いた。
ひどく思い詰めた表情。心なしか顔色も青ざめている。

「す・・・すまん。どうしてもお前に・・・」
九郎にしては珍しく、眼を合わせようとしない。

「ま、上がれよ」
「・・・・・・」
九郎は少し頭を下げると、うつむいたまま靴を脱いだ。

「相談事なら、俺の部屋の方がいいか」
こくり、とうなずく。


「で、いったいどうしたってんだ?」

九郎に勉強机の椅子を勧めると、
将臣はベッドに座った。

九郎はしばし躊躇っていたが、
やがて意を決したように顔を上げた。

「将臣・・・」
「ああ、何だ?」
「この世界には、ば・・・ばれんたいんという習わしがあるだろう」
「そういや、そんな時期だな」
「想い人にちょこれえとを渡すとか・・・」
「よく知ってんじゃねえか」

「そ、それで・・・これなんだが」
九郎は、握りしめていた袋から、ピンク色の箱を取り出した。

「な・・・何だ、これ?」
「決まっているだろう。
ちょこれえとだ」

九郎の顔が、かあああっと赤くなる。
将臣の顔が、さあああっと青ざめた。

「こ、こういうことを言うのは・・・その・・・
ひどく決まり悪いのだが・・・」

「う・・・ぅぃぃぃ・・・」
将臣はフリーズしている。

「オレには、お前しか・・・」
「ぐえっ」
将臣のフリーズが解けた。
一気に窓際まで退く。

「相談する友がいない」
「へ・・・?」

「・・・・・・将臣?
なぜ、かあてんに巻き付いているんだ?」


「ったく、まぎらわしいんだよ」
将臣は再びベッドにドスンと腰を下ろした。
「何がまぎらわしいんだ?」
九郎はきょとんとしている。
「ああ、そうか。かあてんが将臣に巻き付いたんだな」
「いいから、続きを話せ!!」

「これを・・・見てくれ」
九郎はピンクの箱を開けてみせた。

中には、いびつなハート型のチョコレート・・・とおぼしき物体。
ひびの入ったでこぼこの表面には、
ダイナミックな字で「九郎さんへ!」と書いてある。
間違えようもない、望美の字だ。

「確かに・・・食ったら命が危ねえかもな」
「ええっ?!そうなのか?・・・そこまで・・・望美は俺を・・・」
「そうなのか・・・って、
これを食わないですませる方法の相談じゃなかったのか?」

九郎は姿勢を正した。
「そんな無礼なことをするわけがないだろう」
「じゃ、何なんだ?」
「この、ちょこれえとの形だ」
「形?」

「はあと型というのだろう?心を表す象徴と聞いている」
「ま、難しく言うとそんなところかもな」

「望美は・・・これを、『私の気持ちです』と言って、俺に」
「はあ?」
「はあ、じゃない。わからないのか。
このいびつな形が望美の気持ちなら・・・俺は・・・」
九郎は唇を噛んだ。

「・・・・なぜ望美の心が離れてしまったのかわからない。
俺を嫌うというなら、潔く身を退こう。
だが、せめて、理由が知りたい。
そうでなければ、俺は・・・」

「やれやれ・・・・・」
将臣はため息をついた。



「そうか!そんなことだったのか」
将臣の話を聞いた九郎は、
さっきまでとは別人のように明るい笑顔になった。

「そんなにさわやかに笑うなよ。
お前、マジでそれ、食うのか?」
「もちろんだ。
俺のために苦手な料理をしてくれたんだぞ。
ちゃんと食べて、礼を言わねばならん」
「そこまで言うなら止めねえが、腹の薬は用意しとけよ」
「そうか。幼馴染みのお前が言うんだ。心しよう」

「ま、がんばれよ」
「感謝する。
ところで、もう一つ尋ねたいんだが」
「ん?」
「ほわいとでい、というのは、
ちょこれえとへの返礼の日なのだな」
「ああ、そうだぜ。九郎は義理堅いな」
「いや、やはり気持ちには気持ちで応えないとな」

九郎は笑顔で帰っていった。




その1ヶ月後・・・・・・。


「将臣く〜〜〜ん」
まっ青になった望美が、水色の箱を掴んで
有川家の玄関に駆け込んできた。


「お前ら・・・似た者同士にもほどがあるぜ」

将臣は盛大にため息をついた。





☆・・・バレンタイン集・・・☆

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とんだ巻き添えを食らった将臣くんでした。

やっぱりこんな時相談するのは、天地の対の有川・兄ですよね。
弟くんだと、メガネの奥からにらまれそうだし、
九郎さんにとっては相克だし(ん?)。

お初の九郎さんメインです。

キャラ設定の備考欄に、女性に免疫がない、
などと書かれてしまうお方。
そして、とても素直な性格
(ご本人は疑り深いと思っているフシもありますが)。
天然なところが、可愛く書けているといいのですが。


2007.4.3