鬼の洞窟に、冷ややかな声が鞭のようにぴしりと響いた。
「四方の札は、神子が全て入手してしまった。
これほどの不始末をしでかしておきながら、
よくもおめおめと戻ってこられたものだな」
「お怒りは当然です。いかような処分もお受けする覚悟」
「申し訳ありません、お館様。このシリン、今度こそ」
「いいえ、僕に任せていただければ、次こそ絶対に」
「………ご命令を、お館様」
「言い訳など聞き飽きた」
吐き捨てるように、アクラムは言った。
怒っている上に、少々疲れ気味…でもあるようだ。
本人に連動しているのか、仮面の目の下にまでクマができている。
連戦連敗では無理もない。
上に立つ者としては、部下達のふがいなさに切歯扼腕する思いだ。
何しろ、自分の計画は完璧だったのだから。
ぷいっ…
なおも言い訳を続ける部下や寡黙すぎる部下を残して、
アクラムは無言で姿を消した。
「お館様!」
「どちらへ?!」
当然、返事はない。
どーしよー……
四人は顔を見合わせた。
「お前達のせいだ!
もしもこのままお館様が帰ってこなかったら…僕は」
「何を言ってるのさ、悪いのは誰だと思って」
「よさないか! 一族を率いるお館様が出奔するなどと、
本気で思っているのか!」
イクティダールの一喝で、セフルとシリンは黙った。
ランは身じろぎもせず、その場に立っている。
「とにかく今は、仲間割れしている場合ではない。
お前達は、お館様の様子に気づかなかったか。
自分には、ひどくお疲れのように見えたが」
「そういえば、仮面にクマが…」
「心なしか、肩を落としていたような…」
「お館様が心配だ。あたしが探しに行くから、止めるんじゃないよ。
このシリンが、疲れたお心を慰めて」
「お館様の力になるのは僕だ」
「子供に何ができるのさ」
「お前みたいなしつこい女にベタベタされたら、
お館様はもっと疲れるに決まってる」
「何だってぇ!」
「よせ!」
しーーーーーーん
「お館様の力は知っているだろう。よけいな心配は不要だ」
「いつもと様子が違うと言ったのは、イクティダールじゃないか」
「それでもあたしは心配だよ。
もしもこんな時に、神子や八葉と出くわしたら…」
「確かに、無傷ではすまないかもしれない」
「イクティダールが止めても、僕は行くからな!
お館様をお守りするんだ」
「その役目はあたしのものだよ」
「みんなで…行けばいい」
ぽつりとランがつぶやいた。
というわけで、鬼の面々はアクラムを探すため、
「手分け」という名目で四方に散った。