お館様の休日・6 エピローグ


アクラムがランを連れて戻ると、
シリンが一瞬凄い形相になったが、
部下達は皆、なぜか満面の笑みを浮かべて迎えに出てきた。
そして夕餉に運ばれてきたものは、
どれも手のこんだものばかり。

昼間、彼らが八葉を止めていたことには、とうに気づいている。
だが誰一人として、それを手柄顔で言い出す者はいない。

いつも、このように気を利かせて働けばよいものを…。

清めた手を見ながら、アクラムは
呪詛の石を掘り出した時の、土の感触を思い出していた。

土を掘り返すなど、童の時以来だ。
さらさらとしていたり、湿っていたり、
固く凝り固まっていたり、ぬるぬると滑るようだったり。

四神までも渡すわけにはゆかぬ。
部下に命じて埋めさせた呪詛の石だが、
失敗続きで不安が募っていた。
そこで、自ら場所を確かめ、さらに強い呪いをかけてきたのだ。

生意気な虫が逆襲してきたのは不快であったが、
思い切り石を投げつけた時には爽快だった。

丘の上に広がる空は、どこまでも青かった。

木々の葉を揺らす風音は心地よく、
盛りの過ぎた木蓮のほのかな香りに
なぜか懐かしさを覚えた。

陽を受けて川面がきらきらと輝く様を最後に見たのは、
いつのことだったろうか。


アクラムは部下達を呼び集めた。

「神子と八葉は、四神を取り戻しにくる。
それが愚かな望みだと、思い知らせてやらねばならぬ」

「はっ!」
全員が声を揃えた。

――お館様の、仮面の目の下のクマが消えている。
今日はゆっくり休めたに違いない。

「早速、明日から!」
「行くがいい。
今度こそ、よい報告を待っている」
「お任せ下さい、お館様!!!」

後半戦を前に、意気上がる鬼の一族であった。






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2010.04.19