アクラムがランを連れて戻ると、
シリンが一瞬凄い形相になったが、
部下達は皆、なぜか満面の笑みを浮かべて迎えに出てきた。
そして夕餉に運ばれてきたものは、
どれも手のこんだものばかり。
昼間、彼らが八葉を止めていたことには、とうに気づいている。
だが誰一人として、それを手柄顔で言い出す者はいない。
いつも、このように気を利かせて働けばよいものを…。
清めた手を見ながら、アクラムは
呪詛の石を掘り出した時の、土の感触を思い出していた。
土を掘り返すなど、童の時以来だ。
さらさらとしていたり、湿っていたり、
固く凝り固まっていたり、ぬるぬると滑るようだったり。
四神までも渡すわけにはゆかぬ。
部下に命じて埋めさせた呪詛の石だが、
失敗続きで不安が募っていた。
そこで、自ら場所を確かめ、さらに強い呪いをかけてきたのだ。
生意気な虫が逆襲してきたのは不快であったが、
思い切り石を投げつけた時には爽快だった。
丘の上に広がる空は、どこまでも青かった。
木々の葉を揺らす風音は心地よく、
盛りの過ぎた木蓮のほのかな香りに
なぜか懐かしさを覚えた。
陽を受けて川面がきらきらと輝く様を最後に見たのは、
いつのことだったろうか。
アクラムは部下達を呼び集めた。
「神子と八葉は、四神を取り戻しにくる。
それが愚かな望みだと、思い知らせてやらねばならぬ」
「はっ!」
全員が声を揃えた。
――お館様の、仮面の目の下のクマが消えている。
今日はゆっくり休めたに違いない。
「早速、明日から!」
「行くがいい。
今度こそ、よい報告を待っている」
「お任せ下さい、お館様!!!」
後半戦を前に、意気上がる鬼の一族であった。