・・・・・赤毛萌同盟・・・・・



1.朝の風景

(ロンドン)は今日も霧の朝を迎えました。
え?ルビが強引? ふふっ、手厳しいですね。
でも、ここは僕に免じて許していただけませんか?
あ、申し遅れましたが、僕は、弁慶といいます。
ゴジョー橋の近くで開業医をしていますので、具合が悪い時には来て下さいね。

さて、ぼくの表向きの職業は医者なんですが、
時には友人のヒノエと探偵の仕事をすることもあるんですよ。
ヒノエは一応、探偵なんです。
彼とは古いつきあいで、しかも迷宮( ベイカー)街221bの「めぞん遙か」に同じく間借りしているので、
彼に仕事が入ってくると、いやでも巻き込まれてしまうことがあるんです。
ふふっ、こういうのを腐れ縁・・・とでもいうのでしょうね。

ぼく達が関わった事件の中には、事の重大性から公表を控えなければならないものも
少なからずあるのですが、それ以外の事件については、ぼくが事のあらましをまとめて
発表しているんです。だから、世間にはヒノエのことを名探偵と思いこんでいる人も
いるようですね。

さて、これからお話しするのは、最近起こったばかりの事件です。

・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・

いつものように新聞に目を通していたヒノエが
「鉄道は早めに売りだな。今週中に造船が動くか・・・」
など言いながらメモをとっている。
「本業だけでは干上がってしまいますか?ヒノエ」
窓の外に渦巻く霧を眺めながら弁慶が言う。
いつもながらの朝のやりとりだ。

階段に軽い足音がして、部屋のドアがノックされる。
「おや、姫君のお出ましだね」

「おはよう、ヒノエくん、弁慶さん。朝ご飯をお持ちしました」
「めぞん遙か」の家主兼管理人の望美が入ってきた。
「ひゅ〜。今朝は一段と愛らしいね。お前の光り輝く美しさは、深い霧でさえ
一瞬で晴らしてしまうよ」
「余計なこと言ってるヒマがあるんなら、運ぶの手伝えよ」
大きなお盆を持った、料理担当の譲が言う。
「オレには、姫君手ずから運んでくれた料理がサイコーなんでね」
「すみません、望美さん。毎朝この調子ではあなたも疲れてしまいますね」
「どっちかって言うと、俺の方が疲れるんだけどな」
「ヤローの機嫌なんて、優先順位低いぜ。でも、譲の料理は本当に美味いな」
「そうよね。譲くんの腕前、さらに上がってきてるしね」
先輩(かんりにんさん)にそう言ってもらえると、 俺、すごくうれしいです。☆↑」

「オレ達の褒め言葉は無視かよ」
「そんなことないさ。でも、悪いけど俺、明日は弓の大会で休ませてもらうから」
ガタガタッ!!
ヒノエと弁慶はうろたえて立ち上がった。二人とも青くなっている。
「おい、マジかよ。譲じゃなきゃ、誰が食事を・・・」
「冗談・・・ではなさそうですね」


「あー、二人とも心配しなくていいよ〜」
大きな洗濯カゴを抱えて、洗い物担当の景時が入ってきた。
「妹に手伝ってもらうことにしたから、炊事当番は朔がやってくれるよ」

がたんがたん・・・。二人は椅子にへたりこんだ。
「あー、おどかすなよ」
「朝から心臓に悪いですね」

「えっと、この部屋の洗濯物はこれだね〜。で、洗った分はここに置いておくよ♪」
「景時さん、朔に頼んでくれて、ありがとうございます。急なことで悪かったけど、
とても助かります。本当は私が頑張らないといけないんだけど・・・」
「ああ、気にしないでね♪」「気にしないで下さい」「気にするなって」「そんなこと、気にしなくていいんです」
四人が一斉に言った。
「ありがとう、みんな優しいね。じゃあ朝ご飯、ゆっくり食べてね。」
望美はにっこり笑った。

「譲くん、これで朝ご飯はみんなに運び終わったんだよね」
「ええ。早番の九郎さんは食べずに出勤、リズ先生は徹夜明けで帰ったばかりなので、要らないそうです。
敦盛はいないし、兄さんはまだ寝てるんで、部屋の前に置いておきました。あとは俺達だけです」
「じゃあ、私も頂こうっと」
望美は階下へ降りていった。

一気に緊張が解ける。
「一時はどうなることかと思ったぜ。姫君の手作りとあっては、断るわけにもいかないしさ」
「それは僕だって同じです。かといって、命は惜しいですからね」
「以前えらい騒ぎになったことがあって、それ以来、 先輩(かんりにんさん)の料理は封印してるんです」
「本当〜、大変だったよね。パンとベーコンエッグで、あそこまでダメージ与えるなんて、
ある意味すごいかもしれないけど」
「九郎さんとリズ先生に頼み込んで、検非違使庁(スコットランドヤード)まで 手を回してもらったりしましたね」
「ま、いくら望美ちゃん(かんりにんさん)のためとはいえ、ああいう思いは一度でたくさんだからね〜」

「おやヒノエ、どうやら依頼人が来たようですよ。赤毛の青年・・・ですね」
「ああ、こっちに真っ直ぐ歩いてくるね。タイラー家の関係者で、昔は相当羽振りがよかった。
でも今は、頼る者もいない一人暮らし・・・か」
「ふふっ、一瞬の観察で相手のことを言い当てる、いつもの推理ショーですね」
「まあ、そんなところかな」


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