4.正体


「ネズミの穴にしては大きいが・・・」
「ん?ここの草の生え方は少し不自然ですね」
「そういや、そうだな。鬼警部(リズ先生)、 ちょっとオレと一緒にここを押してみてくれ」
「うむ。ずいぶんわかりやすいカムフラージュだな」
どさっ・・・バサバサバサッ。
草がどけられると、穴は人が十分に入れるくらいの大きさがあった。

「ネズミが案内してくれるとはね。これで待つ手間がはぶけたかな」
ヒノエは穴をのぞき込んだ。
「ふうん、結構深いね。じゃ、ちょっとみんな離れてて」
ヒノエはそう言うと、蝋燭を取り出して火をともし、長い紐の先に結びつけて
穴の中にそろそろと下ろしていった。
「普通に燃えてるね。アブナい気体が溜まってることはなさそうだ」
「炎が同じ方向に揺らいでますね」
「そっちにも穴は続いてるってことか」
「ちょっと見てくるよ」
ヒノエは身軽に飛び降りた。
「へえ、こいつは驚いた・・・というか、あんまり予想通りなんで驚いたぜ」
「通路でも見つけましたか?」
「あんたも人が悪いな。知っててオレを先に行かせたのか」
「僕は医者ですからね。最初に僕が倒れたら、しゃれにもなりません。ともかく・・・」
「そう、庭を荒らしたヤツがここから出てきたのは、間違いないだろうな」

「ねえー!!私もそっちに行っていい?!」
望美が穴をのぞき込んで叫ぶ。今にも飛び降りそうな勢いだ。
九郎が穴の側から望美を引きはがした。
「馬鹿かお前は!危険かもしれないんだぞ。」
「ちょっと、そんな言い方しなくたっていいじゃない!」
「それにだ、穴に向かって大声出して、奥に誰か潜んでいたら、気づかれるだろうが」
「あ・・・!」
「わかったら、ここでおとなしく待ってろ。警部(先生 )、僭越なお願いで恐縮ですが・・・」
「うむ、わかっている。穴の入り口を固める者も必要だ。この場は二手に分かれよう」

リズと将臣が望美とその場に残り、後の者がヒノエに続いて穴に入っていった。

「あーあ、私も行きたかったなあ」
「無茶言うなって。管理人のお前にもしものことがあったら、オレ達は路頭に迷っちまうだろ」
「『めぞん遙か』は心地よい場所だ。それはお前(かんりにんさん )がいればこそ・・・」
「ありがとう、二人とも。じゃ、待ってる間にお弁当食べよう!」
空気が凍り付く。
「謀ったな、九郎!」
「これを予期して私をたばかるとは・・・」

「ふぇっくしょい!!」
「しっ、静かに、九郎」
「何か聞こえるぜ・・・」
地鳴りのように低いうなり声のような音が響いている。
「用心した方がよさそうだね。灯りを暗くするぜ」
ヒノエは蝋燭に覆いを取り付けた。
とたんに周囲が暗くなる。覆いから洩れる微かな光で3人は進んでいく。
「足元がおぼつかない。気をつけよう」
九郎が言った。
「じゃあ、どうして夜目の利く警部(先生 )に来てもらわなかったんだい?」
「そんな、答えを知ってるような口調で聞くな」
「九郎、君もけっこう、悪党ですね」
「お前達と一緒にされるのは心外だ」

その時、
ずおおん・・・
前方で何か巨きなものの動く気配がした。
暗闇の奥から大きな影がこちらに向かってくる。
ヒノエ達を見つけ、その目がギラッと光った。
「グオオオオオオッ」

「うわっ!」
「三十六計!」
「逃げるに如かず!」

追いつめられた将臣とリズが、観念しておにぎり(サンドイッチ )を口に入れようとした時だった。
ヒノエ、弁慶、九郎が穴から飛び出した。

「グオオオオオオッ」

続いて化け物も、穴から這い出してくる。
緑がかった体毛、長い尾、首の周りの毛は鋭く逆立ち、口は大きく裂けている。
門歯が異様に大きい。

「っ!」
「な、何?!」
外の光で見る化け物の姿は、ネズミそっくりだ。
「これじゃあ、弁当は後だな♪」
「九郎への説教が先だ」
「申し訳ありませんっ」
「やはり計画的か。破門だ」
「そ、そればかりは」
「じゃ、降格」
「あ、甘んじてお受け致します」
「ついでに掃除当番1ヶ月」
「ついでに・・・って、お、鬼ぃ!」
「何とでも言いなさい」
化け物の攻撃をかわしながら、ほのぼのとした師弟の会話が続く。

「逃げてるだけじゃ、埒があかないね」
「何か策がありますか?ヒノエ」
「策士はあんたの方だろうが。ま、このままじゃ依頼人の家まで化け物に 壊されちまうからね。
ここらできっちりキメとくよ」
「もしかして・・・あれを?」
「そう、東洋の神秘の国に伝わる秘術・・・さ」
「ふふ、楽しみですね」

「ヒノエくんすごい!ねえ、東洋の神秘ってどんな?」
おもしろそうな言葉を聞きつけた望美が飛んできた。
「うれしいね、姫君が期待してくれるなんて」
(☆v☆) 望美はわくわくしている。
「じゃあ、ちょっと手伝ってもらえるかな?」
「もちろん!!どうすればいいの?」
「ちょっと耳かして・・・ごにょごにょ」
「ええ〜っ?!」
「いやかい?」
「だって・・・」
「残念だな。せっかく姫君にすごい技をお見せしようと思ってたのに」
「でも・・・」
「もう、見せる機会は二度とないかもしれないね」
「ううーん、じゃ、思い切って・・・」

     ちゅっ       

「ああーっ・・・!」
「抜けがけはずるいぞ!」
「こんな非常時に何を・・・」
「やり口がせこいですね」

「ありがとう、姫君。おかげで、気力も集中力もMAXだよ」
ヒノエの身体を深紅のオーラが包む。
「南天を守・・・・・・・・聖獣・・・・・・・・」
ヒノエは目を閉じ、不思議な咒を唱えた。
「朱雀召喚!!」
その声に応え、紅蓮の炎をまとった火の鳥が虚空から出現した。

聖獣と化け物では格が違う。
お化けネズミは聖なる炎に抗すべくもなく倒れた。

「すごい!すごいよ、ヒノエくん」
「やったな!」
「どう、少しはオレのこと見直した?」
「うん、うん」
「なかなかのお手並みでしたよ」

その時、素っ頓狂な悲鳴が響き渡った。
「ひええぇぇっ!!私のかわいい鉄鼠になんというヒドイことを!!」
そこに立っていたのは、こんな→[●●]サングラスの男。

「黒幕のご登場だね。赤毛萌同盟の支部長さん」
「なんだ、お前惟盛じゃねえか」
将臣が言った。


[1.朝の風景] [2.赤毛の依頼人] [3.張り込み] [5.敦盛の笛] [6.結末]
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