6.結末


幻影の手にあるのは、精巧に細工を施された剣・鏡・玉のミニチュア・セット。
ぽつりぽつりと降り出した雨の中、ちりばめられた宝石が煌めく。
「う・・・、そんなに小さいものだったとは」
惟盛は呆然とする。
「欲しかったのなら、正直に言えばいいものを・・・」
「欲しいです」
「我はネズミが嫌いだ」
「そんなことだろうと思いました!私は・・・亡霊が嫌いですが、こうなったら 力ずくでも」

「ええっ!」
「ぼ、亡霊?」
「我が、亡霊・・・とな?」
惟盛のとんでもない言葉に、その場が一瞬、しん、と静まりかえった。
雨音の中に、敦盛の笛が一段と大きく響く。
ネズミ達が興奮して暴れ出す。
笛の音の方に行こうとしてままならず、怒っているようだ。

「これはヤバイかもよ」
ヒノエが電気鼠を指さした。
みんな、目を><の形にして、をびりびりさせている。
「雨に鉄に電気か。長居は無用だな」
「この場は退くのもやむを得ないですね」
「私が退路を開く」
「先生は・・・どうなさるのですか」
「私もすぐに追いつく。心配は無用だ」
「・・・・先生」
「にゃおん・・・。早く行きなさい。にゃーにゃー」
「はい。確かに心配無用ですね」
ベタな猫の鳴き真似に、ネズミ達は素直に道を開けてくれた。
すたすたすた

一方、
「我は、亡霊なのか?」
「それもわからないあなたでは、宝の持ち腐れというもの。さあ、三種の・・・」
「では、もしかして、我の懐にあるこの輪っかは、頭につける物か?」
「そうそう、それでこそ・・・。ん、あれ?・・・鼠達が・・・」
「ネズミが、何故こんなに光っているのだ?」

ぴぃかぁーーー!!!!
ドンガラガラガラガッシャーーーーーーーン

その頃ヒノエ達は、すでにロックハーラを抜けようとしていた。
「派手にやったね」
「大丈夫かな?」
「たぶん、ね」
「おや、みんな揃って・・・何かあったのか?」
敦盛が歩いてきた。 「敦盛さん、笛、すごかったですよ」
「・・・すまない、何のことか、わからないのだが」
「お前の笛で、ネズミ達がうっとりしたり、騒いだりで、大変だったんだぞ」
「ネ・・・ネズミ・・・ですか」
「うん、ネズミまで感動させるなんて、修行の成果だね」
「・・・・・・・・」
「こんなに姫君を感激させるなんて、敦盛もやるじゃん」
「・・・す、すまないが・・・、また修行の旅に出る」
「え?!帰ってきたんじゃなかったの?」
「いや、まだまだ私は・・・力不足とわかった。失礼する」


「めぞん遙か」では、譲が熱いココアを作って待っていてくれた。

食堂にみんなが集まる。
「ヒノエくん、最初からタイラー家が関係してるって、わかってたんでしょう?」
「そうだね。幻影がここに来た時にピンと来たよ」
「ああ、そのようなことを言っていましたね」
「道を渡る時の無頓着な様子からね。車にも人にも注意を払いもしない。
ああいう道を歩いたことがないんじゃないかってね。」

「それがなぜタイラー家なんだ?」
「公道も歩いたことないほどのヤツなんて、この(ロンドン)でも、そんなにいないだろ。
そのくせ、従者の一人も連れていない、となれば、あとは簡単な消去法ってね」
「そこまで目星がついていたなら、あとはそれほど難しいものではなかったのだな」
「そうだね。行方不明になってるタイラー家の人間を洗い出していけば、
あの怪しい支部長に行き着く、とはわかったんだけどね」
「性に合わない・・・ですか?」
「ああ、どうせなら一気にカタをつけたいからね」

「でも、どうして惟盛さんは、あんなに回りくどいことをしてたのかしら?」
「一番怪しかったのが惟盛でね。3代目は身上潰すっていうけど、
仕事より花鳥風月の世界に心血注いで、一族の財産を食いつぶしてたらしいよ。
それでも足りなくなって・・・」
「家宝を手に入れて、それを売ればよい、と考えたようだ・・・」

「うわっ!」
「いつの間に?!」
幻影が姿を現した。頭上に輪が浮かんでいる。

「家宝の納められている場所はわかっていた。だが我がいたゆえ、
探すことができなかったのだ」
「それで、あんたをおびき出して、その隙にペットの鉄鼠を使って
家捜ししていたって訳だね。ところで・・・」
「・・・我の名か?」
「思い出したから、ここに来たんだろ?」
幻影はかすかに微笑んだ。
「我は惟盛の祖父、清盛という」
「ひゅ〜!一代でタイラー家の栄華を築き上げた、っていうあの人かい?」
「我は現世への執着が強すぎたようだ。ロックハーラの大火を見かねて、(ロンドン)に戻ってきてしまった。
そして帰る途を失い、名も失い、亡霊として三種の神器を守っていたのだ」

「もう、帰れるのかい?」
「ああ、我は行く。その前にヒノエ、そなたにこれを・・・」
幻影が差し出したのは、三種の神器の剣。
「依頼人の家の家宝なんて、さすがに貰えないぜ」
「この剣の陽の気は、そなたにふさわしい。持っておけ」
「惟盛はあんたの孫だろ?あいつには・・・」
「玉と鏡を渡した。我も甘いが、一族の者は捨て置けぬ。ではな、世話になった」

幻影は消えていった。

「幻影さん、成仏した(天国へ行った)のかな」
「ああ、たぶんね。でも、亡霊のことまで心配してあげるなんて、姫君はサイコーに優しいね。」

「うん、だから今日の私のバイト代は、家賃に5割プラスでいいよ。
慈善事業でやってるわけじゃないから、支払いは遅くならないでね」
望美はにっこり笑うと、部屋を出て行った。

「景時さん、俺達って給料もらったこと、ありましたっけ?」
譲が尋ねた。
「う〜ん、残念だけど一度もないよね〜」
「こういう、アコギなところも、先輩(かんりにんさん) らしいですね。☆↑」


・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・*・・・

これが今回の事件のあらましです。
亡霊とかお化けネズミとか、信じられない・・・ですか?
ええ、もちろん信じるかどうかは、あなた次第です。
でも、ここ(ロンドン)の街には 不思議なことがいっぱい起こるんですよ。
今度ゆっくり、あなたと歩いてみたいのですが、僕がお誘いしたら・・・、来ていただけますか?


                               終わり


     

[1.朝の風景] [2.赤毛の依頼人] [3.張り込み] [4.正体] [5.敦盛の笛]
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あとがき


パラレル、パスティッシュ初挑戦で、みごとにすっ転びました(おいおい)。
ああ、ルビ入れがしんどかった(汗)。

パスティッシュではなくオリジナルネタで、
ヒノエくんを探偵役にミステリを書いてみたいと思いつつ、
この調子では、実現は当分先のようです。

さて、大谷育江さんが現場復帰されたのがとても嬉しくて、
超有名なキャラに登場して頂きましたが、微妙に将臣くんとも
クロスする話なので、ちょこっといじってしまいました。

声優さん大好きな私としては、クロスオーバーものには限りなくそそられますが、
マニアックに自己完結してしまいそうなのが、どうにも・・・(苦笑)。

ちなみに、惟盛って、こういう[●●]サングラスが似合うと思うのですが、いかがでしょう?