譲日記・・・序・天界の星の姫たち



「いらっしゃいませ。
ここは武器防具から文房具まで、何でも揃う店、
お客様の望むままに屋です。
お買い物ですか?」

店の主人の決まり文句に、お客の少女はにっこりと笑って
「はい」と答える。

「何になさいますか?いい新作ゲームがあるんですよ。
『Dance One Night』なんていかがでしょう」

少女は軽く首を振った。
「私、特別なノートが欲しいの」
店主がギクッとする。
「ま、まさかお客さん、そんな可愛い顔をして・・・・」
「自動転送機能付のノートはあるかしら?
時空移動に耐えられるくらい、頑丈なもので」
「ああ、あ、そ、それでしたら・・・・ははは・・・・・」


「どうかなさいまして?ちょっとお顔の色が・・・」
「い、い、いや・・・何でもないんです。すいませんねえ、お客さんに心配かけちゃって。
時々、持病の頭痛歯痛腹痛腰痛が出るもんで・・・」
店主は笑ってごまかしながら、奥からノートを出してきた。

「普通のノートみたいですけれど」
「お客さん、よく見て下さいよ。この丈夫な作り!職人の手作り、一点物なんですから」
「時空の狭間の急流に放り込んでも大丈夫なの?」
「ええっ?お客さん、そんな危ないところへいらっしゃるんですか?」

「いいえ、行くのは私の孫なの」
「へええ、大変ですねえ。で、お孫さんは今おいくつで?」
「16歳よ。とてもしっかりした子だから、このノートを渡しておきたいの。ところで・・・」
少女の目が、探るように店主を見つめる。
「このノート、変な付随効果とか、ついてないでしょうね・・・。名前を書かれた人が・・・」
「めめめめめ滅相もありませんよ、お客さん。
うちは真っ当な商売やってるんですから、そんなアブナイもの、
置いてあるわけがないですよ・・・・」

少女は笑顔になった。
「ならいいの。ごめんなさいね、変なことをお尋ねしてしまって」
「いいえ・・・・・、どういたしまして。あ、このシャーペン、オマケに付けときますね。
永久芯で、取り替え要らずの優れもんですから」
「まあ、気が利きますのね。確かにあの世界には、替え芯なんてありませんもの」
「はい、どうぞ。毎度ありがとうございました」
「では、ごきげんよう」
少女が店を出たとたん、店主は冷や汗をかきながら、その場にへたりこんだ。


店の外では、二人の女の子が待っていた。
どちらも10歳くらいで、紫色の長い髪の持ち主だ。
「もうお買い物はお済みですの?菫姫様」
「ごめんなさい、すっかりお待たせしてしまいましたわね」

「いいんですのよ、それより・・・お聞かせ下さいませ」
「いよいよ、神子様が京に旅立たれるのですってね」
「けれど、菫姫様の時代では、いくさが始まっていたとか・・・」

「ええ、悲しいことですわ。紫姫様の時には、源も平も同じ八葉だったのでしょう」
「はい・・・・ただ、お二人がなかなかうち解けないので、
神子様は困っていらっしゃいましたけれど・・・・」
そう言って紫姫はあどけない笑顔を見せた。

「神子様が戦場に出向かれるなど、私、とても心配ですの」
「まあ、藤姫様は心配性なのですね」
「え?そうでしょうか?」
藤姫はきょとんとした顔。

「星の一族が、神子様をお守りしながら共に旅をするなんて、きっと初めてのことですわ。
本当は私が行きたかったけれど・・・・、これも時空の定めなのでしょうね」
「まあ、菫姫様、戦場のような恐ろしい所でも、行きたいとおっしゃるのですか?」
「ええ、もちろん」
「ああ、菫姫様は、本当にお強いのですね」
女の子たちは感激して、菫姫をあこがれの眼差しで見た。

「あの・・・、その『のおと』というのは、お孫様に差し上げるのでしょうか?」
「ええ、ここに書かれた内容は、私の元に自動的に転送されてきますの」
「まあ、それでは、神子様のご様子が、
その都度時空設定して雲間から覗かなくてもわかるのですか?」
「浄土の技術も進歩したものですわね」

「あとはこれを、龍の宝玉と一緒に譲の袖にでもこっそり入れておけばよいわね」
菫姫はにっこりと笑った。






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この店主、絶対裏商売してそう・・・(笑)。 その割に、気が小さいけど。
デ●ノートネタも少々混ぜ込みました。


譲くん(ちょっと黒め?)の日記は、
こっそり贈られたこのノートに書かれたもの、ということで(笑)。