― 2012年 新年企画 ―

神子への贈りものがテーマです。
同じ四神同士の会話で、ほとんどセリフのみですので、
シチュエーション、背景などは、ご想像のままに。




3: 玄 武

※ notギャグ です ※

新年を迎えた鎌倉。

敦盛とリズヴァーンは屋根の上で、
青く澄み渡った空を見上げている。

「敦盛、私たちはよき時間を過ごしたな」
「はい…。
新年を皆で祝う……そのような時が、
自分に再び訪れることなどないと…思っていました」
「不思議な縁だ。
かつての敵同士も、人ならぬ存在も、
互いに認め合い、共に在る」

リズヴァーンは自分の右の頬に触れた。
役目を終え、もうすぐ消えて行くであろう宝玉が
今はまだ、確かにある。
「神子のもたらした、このあたたかな縁…
時空を分かたれても、忘れることはない」
「はい……私も決して…」
敦盛は左の掌を見つめている。

その時、どこかから望美の声がした。
「敦盛さーん! 先生ー!」
「神子…?」
「あそこだ、敦盛」

下を見ると、庭に梯子を抱えた望美がいる。
「私も、そっちに行っていいですかー?」

「神子が梯子を使うと……かえって危ない…と思う」
「そのようだ。私が迎えに行こう」


「ありがとうございます!」
瞬間移動で、無事に屋根の上に上がった望美は
にっこり笑って二人の間にすわった。

「一度でいいから、ここに来てみたかったんです」
「そうか……神子の願いが叶ったなら…よかったと思う」

「やっぱり、屋根のてっぺんは気持ちがいいですね。
空に手が届きそう」
望美はうーんと伸びをした。
と…そのままの姿勢で、ころんと後ろに倒れる。

「きゃっ!」
しかし、敦盛とリズヴァーンに両側から支えられ、
軽々と身体を起こされた。

「す…すみません…」
「いや…神子が落ちなくてよかった」
「敦盛さんも先生も、一瞬のことなのに支えてくれて、
おかげで助かりました」
「神子が伸びをした時から、警戒していた」
「あ…ありがとうございます」
「問題ない。神子を守るのは八葉の務めだ」

――だが間もなく、その役目は終わる。
みんながこの世界を離れる日は近い。

望美はぎゅっと膝を抱えた。
分かっていることなのに、
そのことを思うと、胸が痛い。

その時、ふわふわと白龍が屋根に降り立った。
「神子、ここはよい気が巡っているね」

続いて、庭から朔の声がした。
「望美、屋根にいるの?」

「そうだよー、朔ー!」
望美は立ち上がって手を振り、
敦盛とリズヴァーンは素早く警戒態勢に入る。

「お願い、兄上を止めて。
兄上ったら、自分も屋根に上りたいって…」

同時に、景時の頭が屋根の端にひょっこり覗いた。
「うわ〜っ、やっぱり気持ちがいいな〜♪
洗濯物を干したら、きっとよく乾くよね」

「ねえ、朔も上がっておいでよ」
望美は朔に手招きした。

「え…私も?
兄上の使った梯子はここにあるけれど…怖いわ」

とたんに、景時がまたするすると梯子を下りた。
「朔、屋根の上は気持ちいいよ〜。
怖くなんかないから安心して。
梯子はお兄ちゃんが押さえているから」
「だから心配なのよ…」

「何だ、やっぱり姫君はここだったのか。
オレの勘は冴えてるってね」
ヒノエが庭の木から、身軽に屋根に飛び移ってきた。

「ヒノエ、盗人ではないんですから、
屋根にはもう少し普通に上がってもいいのではないですか」
景時、朔に続いて、梯子を上ってきた弁慶が言った。

「オレは盗人だよ。
きれいな花しか盗まないけどね」

「おっ、屋根がにぎやかじゃねぇか。
俺も久しぶりに上ってみるか。
屋根の上で食うおやつはうまいんだ。
譲、何かないか?」
「そんなの自分で探せよ。
俺は先に上がるから」

「みんな騒がしいぞ。
…っ、先生、それは…新しい修行ですか?」

結局、全員が屋根の上に集まった。

「神子、海の向こうに見えるのは…富士の山だろうか」
「あ! そうです! 今日はいいお天気だから、
はっきり見えますね」

敦盛とリズヴァーンは顔を見合わせ、
頷きあった。

「神子…伝えておくべきことが、一つだけある」
「はい、先生」

「来るべき新しい日々を怖れてはいけない」
「……!」

「どこにいても、何があっても、
真っ直ぐに進んでゆきなさい。
お前なら、必ずできる」

「リズ先生も私も……いや、誰もが
神子のことを忘れない。
時空を隔てても、神子の思い出は…
新たな時を歩いて行く力となるのだと…思う」


澄んだ冬空に明るい笑い声が響き、
道行く人は誰もが、
有川さんの家は、お正月から屋根の修理かしらと、
首をひねった。


大切な思い出が、今日もまた一つ、増えた。









新年の目標: 屋根から玄武を下ろし隊




2012年お正月企画

[1:青龍]  [1:朱雀]  [1:白虎]  [1:玄武]
[3:青龍]  [3:朱雀]  [3:白虎]

[1・オールキャラ]  [小説トップ]


2012.01.01 筆 02.22 [小説]に移動