聖夜

〜敦盛×望美〜
(「迷宮」エンド後)




「うわあ、すてき!!」

灯りを消した部屋の中に
クリスマスツリーが
淡い光をまとって浮かび上がる。

「神子が・・・気に入ったのなら、よかった」

「この灯りは、敦盛さんが選んでくれたんでしょう」
「ああ・・・。神子は、もっと色がたくさんある方が、よかったのだろうか」
「こんな風に、暖かな色が優しく灯っている方が、好きです」
「そうか・・・。私も、これは・・・よいと思う。
心が・・なごむ」

まるで、神子のようにあたたかくて優しいから・・・と
敦盛は心の中でそっと言い足した。


「ツリーの飾り付けも終わったし、あとはケーキですね」
「そ・・・そうか・・・」

望美が恥ずかしそうな顔になる。
「あの・・・、私・・・
手作りケーキ失敗しちゃって、持ってきてないんです」
「いや・・・、それは・・・かまわない」

少しほっとして敦盛は言った。
「では一緒に・・・買いに行こうか?」
「ありがとう!敦盛さん!」



クリスマス当日ともなれば、
評判の店のケーキはことごとく売り切れだったが

小さな店で、可愛らしいブッシュ・ド・ノエルを 買うことができた。

「木の・・・切り株のようだな」
「おいしそうですね♪」


「神子・・・よければ、少し、街を歩かないか」
「え?」
敦盛にしては、珍しい申し出。

「あの・・・いいんですか?」

「い、いや・・・すまない。神子が、早く帰りたいのなら・・・」
「私は・・・敦盛さんと歩けるなら・・・嬉しいんですけど」

「いつも神子は・・・、私に気遣って人混みを避けてくれている。
だが、今宵は・・・華やいだ晩なのだろう?
だから神子も・・・楽しみたいのではと・・・思ったのだが」

「敦盛さん!!」
とたんに望美は敦盛の腕にぎゅっとしがみついた。
すばやく、ケーキを反対側の手に移動させる。

「寒くは・・・ないか?」
「全然♪」
望美の満面の笑顔。
言ってみてよかった・・・、と思う。



二人で、イルミネーションに彩られた街をそぞろ歩いた。
きらめく星々が降りてきたようで、
敦盛の目には、ひどくまばゆく、夢の中の光景のようにも思える。

人々の笑いさざめく声は絶え間なく、
幸せそうな二人連れが、ここかしこに歩いている。
人々の目には、自分達も・・・その中のひと組のように
映っているのだろうか。



「よいな・・・・」
敦盛がつぶやいた。
「え?」
「くりすます・・・とは、異国の・・・習わしなのだろう」
「ええ。楽しいとこだけ、取り入れちゃってるみたいだけど」
「不思議な光景だが・・・、それで、みなが
幸福に満ちることができるなら・・・よいな・・・と思った」
「敦盛さんの考え方、すてきだと思います」
敦盛は、夜目にもわかるほど頬を赤らめた。
「い、いや・・・その・・・み仏の教えも、元は天竺から伝わったもので・・・
だから・・・異国のものでも・・・ええと・・・」
「敦盛さん」

望美が、敦盛の顔をのぞきこむ。
大きな瞳に、真剣な光がみえる。

「・・・なんだろうか・・・、神子?」

「敦盛さんも、今は楽しいですか?」

神子・・・尋ねるまでもないことだ。
微笑みを返す。
笑顔が返ってくる。


楽しいのではない・・・かもしれない。
それ以上に・・・幸福・・・なのだろう。


「あ・・・ここは・・・」
望美が立ち止まった。

いつの間にか、見覚えのある家の前に来ていた。


「去年・・・神子と・・・」
「敦盛さん、覚えていてくれたんですね」
「神子も・・・覚えていてくれたのか」


今年も変わりなく、その家は美しい光をまとっている。


あの兄弟が、また飾りつけたのだろうか。
今宵、美しい思いに包まれて祈り、輝くために。


「今年も、敦盛さんと来られてよかった・・・」
望美が小さくささやいた。
敦盛は、つないだ手に、そっと力をこめる。



神子・・・
気付いているだろうか。
この一年で
あなたは少し、背が高くなった。

私は・・・この姿のまま・・・変わることがない。

二年先、三年先・・・あなたが大人の女性となっても
きっと私は・・・このままなのだろう。


だが、神子・・・。
不思議に、私は思い悩みはしないのだ。


二人で紡ぐ今の幸福こそが
私の全てだから。


幸福な今を積み重ねて
いつかその「時」に至るなら
私は・・・恐れない。
後悔することもない。



祝福の今宵に・・・・、
祈りを捧げることが許されるなら・・・・


私の祈りの言葉は、ただ一つ


神子・・・


ありがとう






☆・・・クリスマス集・・・☆

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素直なクリスマス話も1編くらい書きたいと思い、頑張ってみましたが
いかがでしたでしょうか。

最後は少々痛い・・・&切なめ?になってしまいました。

連載長編の方では、いじられ役の敦盛くんですので、
こちらでは、ちゃんと?書いたつもり・・・のはずが、
お初の敦盛×望美だったために、
管理人の習性として、どうしても痛い部分を避けて通れなくて・・・。


当初はカリンバ話でいこうかと思っていたのですが、
入れこむ場所がありませんでした。
こちらは、いずれリベンジします(笑)。