聖夜

〜リズヴァーン×望美〜
(「迷宮」エンド後)




「ごめんなさい…先生」
望美は力なく言った。

「私に詫びる必要はない。
熱でつらいのはお前の方だ」

「でも…去年も私、先生との約束を…ごほごほっ…」

「いつでも会うことはできる。
今は、風邪を早く治すことが大事だ。
暖かくして、十分に休みなさい」

「はい…先生…」


風邪をひいてしまった。
熱が高くて、頭も痛い。

ベッドに横になっていても、
携帯を持っているだけで、腕がだるい。

天井を見上げて、ふうっとため息をついたとたんに、
「ごほごほごほっ」
ひどく咳き込む。

望美は携帯を持ったまま、
ぱたんと腕を枕辺に下ろした。


今日はクリスマス・イブなのに…。
特別な日なのに。

去年と同じことを繰り返してしまうなんて。

修行が足りないのかな。
健康管理もできないなんて
先生は、あきれているだろうな。

「先生……会いたいのに…」

ぽつんと呟くと、涙がつーっとこぼれた。





深夜、額に心地よい冷たさを感じて、
望美は目覚めた。

……おでこの冷却シート、
お母さんが替えてくれてるんだ…。

うとうとと、そのまま寝入ろうとして、
少しだけ目を開けた。


暗い部屋の中、金色の髪の輪郭がほのかに光る。
青い瞳が、心配そうに望美を見つめている。

「起こしてしまったか…。悪かった、神子」
やさしい声がした。

「せ…先生…」

慌てて起きあがろうとする望美の肩を、
リズヴァーンは、そっと押さえた。

望美は布団の中からリズヴァーンを見上げる。

「先生、来てくれたんですね」

「その……」
珍しくリズヴァーンが言い淀んだ。

「このような夜更けに、
家人に断りもなく、べらんだから部屋に入るなど、
許されることではないのだが…」

たしかに、礼節を重んじるリズヴァーンらしくない所行だ。

けれど、望美は弾んだ声で言った。

「先生、ありがとうございます。
私…先生に会いたかったから、とても嬉しいです」

「そうか、神子」
リズヴァーンの声に安堵の色がまじる。
「お前の望み、かなえられてよかった」

そう言ってリズヴァーンは、枕辺の携帯に目をやった。

「!!!」

はっと気づいてみると、携帯は開いたまま。
電池残量は赤いアイコンになっている。

「私…切らなかったんだ」

「会いたい…という、お前の言葉が聞こえた。
その時のお前の声は、とても悲しそうだった」

「それで、来てくれたんですね」

「そうだ。それに……」

リズヴァーンは手を伸ばし、望美の頬に触れた。

「私も…お前に会いたかった」




「先生の髪…冷たい」
「雪が降っている」
「ホワイト・クリスマスですね」
「聖夜に雪が降るのは、佳きことのようだな」
「雪が、見たいです」
「望むままに…」

リズヴァーンは毛布で望美をくるみ、腕に抱え上げた。

窓辺に立ち、曇ったガラスに手を滑らせる。

白いガラス窓の中に、丸い小さな窓が開いた。


「うわあ…真っ白…」

外は雪明かりでほんのりと明るい。
道も庭も、家々の屋根も、一面に白い雪で覆われている。

そして止む気配もなく、牡丹雪が降り続く。

飽くこともなく、二人、外の雪を見る。
丸い窓が小さくなるたびに、指でキュッキュとガラスをこする。

そして幾度めか、望美はリズヴァーンの腕の中で、
小さな寝息をたて始めた。

ベッドに下ろし、肩まで布団を掛ける。

赤く上気した頬にそっと唇を落とすと、
リズヴァーンの姿は消えた。






☆・・・クリスマス集・・・☆

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翌朝、目覚めて「夢…だったのかな」
と思った望美ちゃんですが、
携帯がきちんと充電器に収まっているのを見て、
夢じゃなかったんだと、確信したそうな。




おまけ
↓ ↓
雰囲気ブチ壊しな続き(反転させてお読み下さい)


悪行がたたり、自分も風邪をひいてしまったリズヴァーンの家に、
望美が襲来したお見舞いに来た。

「先生、大丈夫ですか?」
「ぐぇほぐぇほ、問題ない」
「早くよくなるように、おかゆを作ってきました」
「ぐぇっ!…ほ」
「卵も入ってます」
「ぐぇっぐぇっ…ほ」

「食べさせてあげますね、はい、あーん」
「うーん」
「それじゃ食べられません。あーん」
「いーん」
「もう少し、口を大きく開けて下さい。あーん」
「えーん」
「あーんいーんうーんえーんの次は?」
「おーん」
「よしっ、イテまえっ!」(←何?)
ガッギャギョッ(←スプーンをねじ込む音)
ぐっぐぎゅ〜(←ほとばしる苦悶の音)
「…ぐふっ…」

「あれっ、先生、眠ったんですか。
栄養満点のおかゆも食べたし、
すぐによくなりますね」




ならないと思いますが…。


2008.2.17 拍手より移動