聖夜

〜景時×望美〜
(「迷宮」エンド後)




「わあ、きれいなツリーですね」
「そう言ってもらえると、がんばった甲斐があったよ〜♪」

景時の家、庭に面した広縁に、
望美の背丈ほどもある立派なクリスマスツリーが置かれている。

「あ?これは何ですか」
望美は、ツリーの幹に付いた小さなスイッチを見つけた。
手を伸ばしかけて、慌てて引っ込める。
景時の危ない発明かもしれない。

しかし、景時は待ってましたとばかりに言った。
「そのすいっちは大丈夫。入れてごらん」

「じゃあ…」

カチッ。

すると
「木ッ」
と音がして、ツリーが動き始めた。

景時が音楽を流すと、それに合わせて優雅にターンする。

「うわあ、すごい!!」
警戒心などどこへやら。
望美は手を打って喜んだ。

「この曲分かる?」
「あ、これって、去年のダンスパーティーの時の…」

「そうなんだよ〜」
景時は嬉しそうに続けた。
「今夜もまた望美ちゃんと行かれることになったから、
オレ、だんすの練習をしてたんだよ」

「誰と…って、まさか?」
望美はツリーと景時を見比べる。

「そう、名付けて舞練習機能付くりすますつりー」

「は……あ……きゃ!…」

いつの間にかツリーが望美の前に来ていた。
望美の手をとって、踊り始める。

「じゃ、私も今夜のリハーサルをしようかな」

くるくる〜
るらるら〜

しかし…
「か、景時さんっ、上手く踊れません」
「ええ〜っ!どうして?」
「手の構えが、逆です」
「あ、そうか!」

「やっぱり、景時さんと踊るのがいいです」

「あ、な、何か照れるけど…オレ嬉しいよ」
景時は頬を掻きながら赤くなった。
「じゃあ、止めるね」

景時がスイッチを切ろうとした時

「木ッ!」
くるりっ!

「え?」
「きゃっ!」

「木ッ木ッ木ッ〜ッ!!」
ぽかっ!

ツリーの枝が景時の頭を叩いた。
「痛っ!!」
「大丈夫ですか、景時さんっ!!」
ぽかぽかっ!
「痛っ!痛いっ!!」

「今助けますっ!!」
しかしツリーは望美の手を離さない。

「景時さんっ!このツリー、何だか怒ってるみたいですよ」
「木ッ木ッ木ッ〜ッ!!」
その通り!と言うように、
ツリーはてっぺんの星をぶんぶんと揺らした。

「やっぱり…」
「木ッ木ッ木ッ〜ッ!!」
「景時さん、何か身に覚えでも?」

「ええ〜っ、そんなことあるわけ…」

景時の言葉が止まった。

そういえば………

オレ、つりーを相手に踊りながら、
望美ちゃんにささやく言葉の練習をしていたんだっけ…。

「今夜の君は、天界の星よりも美しいよ」
「ずっとオレのそばに…いてくれるかな」
「君を…帰したくない」
「眼を閉じて…かわいい人」(あれ?これはオレじゃないよ)

ということは、もしかして、
つりーはオレの言葉を自分に言われたと思いこんで…?

庭の池で、サンショウウオがこっくりと頷いた。
「コノ浮気者〜!!ッテ、言ッテル」

「木ッ木ッ木ッ〜ッ!!(あんたなんかに渡さないわよき〜っ)」
「いやあああっ…!!っ」

力任せにツリーを振りほどこうとした時、
望美は足を滑らせた。

ずるっ、どんがらがらがらがっしゃ−ん、びりっびりびりっ!!


その拍子にスイッチが外れて、ツリーは動かなくなった。

「ああ、よかった」
景時が頭をさすりながら駆け寄った。
「大丈夫?望美ちゃん」

「……ちっとも大丈夫じゃありません」

「ひ…ひぃぃぃっ」

ツリーの下から這い出てきた望美のドレスが、
ものの見事に引きちぎれている。

「うわっ…た、大変だね…たら〜
「見ないでっ!!」
「はっはひっ!!たら〜
景時は後ろを向いた。

「新しいドレスなのに…どうしよう」
「これから買いに行こう!」
「もう時間がありません」
「じゃあ…あの手でいくしかないかな」
「まさか、また今年も?」
「う、うん。ごめんね」
「仕方ないです」

「……あれ?それだけ?」
「それだけって?」
「い、いや、それだけなら別にいいんだけど」
「これから景時さんと一緒にクリスマスパーティーに行くし」
「よかった〜。また君に投げ飛ばされるかと思ったよ」
「毎回同じオチじゃ、つまらないですから」
「そうだよね!」


しかし、景時が安堵したのも束の間…

陰陽術で望美は華やかなドレスを纏い、
パーティーはつつがなく終わった。

ドレスの一件も忘れ
帰路でも二人の会話は弾んでいる。

「楽しかったですね」
「うん、くりすますって、いいね〜」

その時、
ぼわん!
陰陽術の効果が切れた。
「あ…」
たら〜

同時に、
「まあっ、そのドレス…!!
私の大事な望美に何をしたのっ!!!」
望美の母と鉢合わせした。

「遅いから心配になって迎えに来てみれぶぁぁっ!!」

「あ…ええと…これは 「問答無用!!」
むんずっ
「ひぇぇぇ」

「とおりゃあああああ!!!」
「うわああああああ!!!」




「もうっ、誤解だよ。ごにょごにょ…」
「え?クリスマスツリーに引っかけて破いた?
その上、ツリーも壊した?
まあ、どうしましょう…
もうあんなに遠くまで飛んでいっちゃったじゃないの」







☆・・・クリスマス集・・・☆

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もはや「お約束」な景時さんの災難話。
クリスマスなのに、運が悪いです〜〜。
今回はちょっと目先を変えて、
望美ちゃんママ登場。

将来が……思いやられるような………。


2008.2.17 拍手より移動