・・・大人の時間・番外編・・・


分 別



「ありがとうございます。本当に助かりますよ」
「この世界に来たからには、その法に従うのは当然のことだ」
「こんなに大勢で押しかけちゃってるんだから、
できることは何でもやらせてよ〜」

有川家の朝。
まだ皆が寝ている中、
譲、景時とリズヴァーンが、せっせと立ち働いている。

部屋を掃除して、洗濯をし、朝食の支度もする。

譲一人では、とてもできるものではない。

「ふうっ、兄さんがあんなで、すみません。
景時さんやリズ先生がこうして手伝ってくれてるのに」

「水くさいなあ。
あっちの世界では、譲くんが毎日おいしい朝ご飯を作ってくれたじゃない」
「あ、いいえ…それくらいのことは…先輩のためだったし……

「譲殿、さらだの用意ができたわ。
どれっしんぐの作り方を教えてほしいのだけれど」
キッチンから、朔が顔を出す。
「あ、今行きます」

「じゃ、オレとリズ先生は、ゴミを出してくるね。
でも、その前に確かめてくれないかな」
「景時も私も決まりの通りに分けたつもりだが、間違っているやもしれぬ。
朔を待たせて悪いが、一度確認してほしい」

「すみません。毎回、ゴミの分別収集にまで気を遣ってくれて」
がさごそ……

「驚いたな。今日こそ完璧ですよ。
ここまできちんとやっている人の方が、少ないと思います」
「うわ〜、やった〜♪」
「そうか、今までの経験が生かされたようだ。
しかし問題ないならば、急いだ方がよい。
決められた刻限までに、定められた場所に運ばねばならぬのだろう」

「そうですね、じゃあ、お願いします」
「帰ったら、洗濯はオレがするからね〜」



ゴミの集積所は、近所の女性達が集まり、とても賑やかだ。
なぜか、半径50m以内に男性の姿は見えない。

「今日も来るかしら」
「ええ、絶対来るわよ」
「あら、あなた出勤時間は大丈夫?」
「まだ電車2本、余裕があるの」
「ちょっと、あなたは予備校の冬期講習があるはずじゃ…」
「灰色の受験生活の中で、モチベーション維持のためには、
これが欠かせないんです」
「私もねえ、お爺さんと二人きりになりましたけどねえ、
ひとときの心のオアシスは貴重なんですよ」
「胎教よ!いい男を見せて、いい男に育てるのっ!」

そこへ

「おはようございます」
景時とリズヴァーンが現れた。

「おはようございま〜〜〜す♪♪♪」
女性達も、一斉に挨拶を返す。

「今日も何だか、女の人ばかりだったね」
「うむ。子細があるのだろう」

立ち去っていく景時とリズヴァーンの後ろ姿を
熱い眼差しで見送る女性達は、
世代を超えて一つの心で結ばれていた。

彼女たちの上空にほんわりと漂う、巨大なピンクのハートに
二人が気づくことはなかったのだが。




      




大人の時間

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番外編

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あとがき



「迷宮」で有川家に一斉に居候した面々のうち、
一番コマメに手伝いそうなのが景時さん(笑)。
ゲーム内でも、洗濯の他に布団干し奉行にもなっていましたし。

そして、義理堅いのがリズ先生ではないかと。
規則を守らなければならないゴミの分別など、
本当にきっちりやりそうです。
ちなみに、タイトルは「ふんべつ」ではなく「ぶんべつ」(笑)。

敦盛さんも、意外と気を回して動きそうですし、
九郎さんも、リズ先生が働いているのに自分が寝坊を決め込むなど
できない性分だと思います。
なので、最初はこの二人も加えて書き始めたのですが、
回りくどくなってしまい、あえなく挫折(汗)。
彼らは、見えない所で働いていると思って下さいませ〜〜〜。


2008.10.3 拍手より移動